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「なんで?」
目的のことを聞けなかった俺の問いかけ。それに対し鹿賀は、困ったように笑って手に持っている物を掲げた。
それは見覚えのある黒いキーケース。物を大切にする持ち主が使っている、綺麗なキーケースだ。
「先生から預かってきました」
「……なんで?」
「1人にしないであげてって。でも自分じゃ駄目だから代わってくれ…だそうです」
鹿賀が持っていたそれをテーブルに置く。俺の視界に入ったそこには、鍵が1つだけ付いていた。それはこの家の鍵で、世界に2つしかないものだ。
そのうちの1つは俺が持っていて、残りがこれなのだから……。
「リカちゃん、帰ってこないんだ?」
訊ねた俺に、鹿賀は曖昧に頷いた。そうするしか出来なかったんだと思う。
「お前、どこにいたんだ?こんなに早く帰って来たなら、この近くにいたんだろ?」
「近くのファミレスで時間潰しててって言われて、さっき迎えに来てくれました。マンションの下まで送ってくれて」
「誰に?……って、そんなの1人しかいないか」
鹿賀を追い出したのはリカちゃんなのだから、それを告げたのもリカちゃんで間違いない。否定しないところを見ると、俺の予想は正しかったんだろう。
「リカちゃんに出て行けって言われたんじゃないの?」
「出て行け?いえ、僕は兎丸くんと話があるから、その間席を外してって。あと……」
言い淀んだ鹿賀が顔を伏せる。
その続きを促すと「なんでもないです」とごまかされてしまった。
リビングには沈黙が流れ、鹿賀は何かを言いたそうに俺を見ては視線をそらす。それが気持ち悪くて、眉間に皺が寄ってしまう。
「なんだよ、言いたいことあるなら言えよ」
「言いたいことというか……聞きたいことっていうか」
「なに?」
本当は今すぐ鹿賀を問い詰めて、リカちゃんの居場所を聞きたかった。多分リカちゃんのことだから教えてないんだろうけど、それでも一応は聞いておきたかった。
「聞かないなら俺が聞く。リカちゃん今どこにいんの?」
「知らないです。僕は鍵を渡されただけなので」
ほら、やっぱり。そう落胆する。
桃ちゃんの家は隣だし、リカちゃんが行くとしたら残るは歩か美馬さんの家……そのどっちだろうか考え、とりあえず歩に連絡してみようかと立ち上がる。
ギシリとソファが軋む音がして、鹿賀が「あの」と口を開いた。
「先生と喧嘩した……んですよね?」
「別に」
「それって僕の所為ですよね?」
「だから別にって言ってんじゃん」
お前には関係ない。視線で訴え、答えない。
だって、きっかけは鹿賀のことだったかもしれないけど、それを大きくしたのは俺とリカちゃんだから。
だからあんな事になって、リカちゃんは帰って来ないんだと思った。
「別に喧嘩するのなんて初めてじゃないし。よくあることだから」
そうは言ってみたものの、俺とリカちゃんは喧嘩なんてしない。喧嘩に発展する前にリカちゃんが解決してしまう。
俺は、喧嘩して仲直りする方法を知らない。
それでも鹿賀が気にしなくて済むように続ける。上手い言い訳も、説得できるような言葉もない俺には、これが精一杯だ。
「だからお前の所為じゃないし。あいつのことだから、明日は笑って帰ってくるだろうしな」
「……兎丸くんは許すんですか?」
「何を?どこに泊まったかは聞き出すけど」
鹿賀の視線を感じながらメッセージアプリを起動し、歩とのトーク画面を開く。何て打ち込むか考えながら指を彷徨わせる。
意識が色んなところに散って、集中できない。
「無理矢理襲われたんじゃないんですか?」
鹿賀の目が捉えるのは赤くなった俺の手首だ。はっきりと痕が付いているわけじゃないけど、普通じゃない様子がわかるそこ。
ジッと見つめて、また訊ねてくる。
「たとえ恋人同士でも強姦って成立す──」
「そんなんじゃない」
鹿賀を遮って、俺は右手で左の手首を摩る。
もう痛みを感じないのは、リカちゃんが手加減してくれたからだってわかる。強引で横暴だった最中でさえ、気遣ってくれていたのを俺は知っている。
だから、あの行為は誰が何と言おうと俺の中では答えが決まっていた。リカちゃん本人が否定したとしても、俺の気持ちは変わらない。
「俺だってしたかったからいい。まあ、いつもより荒っぽかったけど……たまにはいいんじゃねぇの」
言い切ると、鹿賀はため息をついた後に面白くなさそうな顔をした。せっかく心配してくれたのを跳ね除けた俺は嫌なやつかもしれない。
でも、それでも譲れない。
「全部、同意だから」
あれは同意の上での行為だ。
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