アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
120
-
とりあえず、歩からの返事がいつ来ても気づくようにマナーモードを解除する。突っ立ったままの鹿賀を見ると、まだ難しそうな顔をしていた。
「まだ何か言いたいことあんの?」
「なんか……納得いきません」
「何が?」
鹿賀に聞きながらも俺の意識はスマホに向かっていた。歩からの返事よりも、リカちゃんからの連絡を待っている自分に気づかないふりをして、それでもしっかりと握り締める。
「別にお前に関係ないから。俺がどう思おうと勝手だろ」
「そうだけど。でも僕が原因なのは間違いないし」
「だからお前じゃないって。あいつがバカなだけだ」
確かに俺はリカちゃんに嫌いって言ったし、拒絶もしたし、なんなら最初は鹿賀の味方をした。様子が変なリカちゃんを放って鹿賀を探そうとした。
でもそれは当然のことだと思う。その当然のことで変になったリカちゃんがおかしい。
おかしい……全部おかしい。この展開も、急に戻ってきた鹿賀も。俺と鹿賀を2人にするリカちゃんも。
「なあ、お前俺に何か隠してることある?」
不意に訊ねると、鹿賀は瞬きして固まる。
「あんのかよ、言えよ。それを解決したら俺とリカちゃん仲直りできるかもだし」
鹿賀の隠し事を知りたい気持ちより、リカちゃんとの仲直りを選ぶ自分に呆れる。さっきまで鹿賀に優しくしろって言ってたのは自分のくせに、こうして自分に火の粉が降りかかると俺は鹿賀より自分を選ぶ。
黙ったままの鹿賀を見て、鳴らないスマホを見る。どっちも答えないことが腹立つ。
「言いたくないわけ?自分の所為だとか言いつつ、そこは隠すのかよ」
自覚するほど刺々しい声が出た。
「隠してないです。僕は何も…何も隠してない」
「じゃあ堂々としてろよ。全部リカちゃんの勘違いなんだから」
すげぇ情けない話だ。リカちゃんの怒りのスイッチは俺みたいな平凡には、到底理解できない。
もう今日は疲れたし、明日また話せばいいやと寝室へ向かう。その後ろで鹿賀が何か言おうとしたけれど、俺が振り返ると黙ってしまった。
「俺疲れたから寝るわ。身体は痛いし、そんな気になれないから明日は大学休むけど、お前は?」
「……僕も休みます」
「別に合わせなくていいっての」
鼻で笑って返したが、内心はホッとしていた。今この家で1人になると、怒っていたリカちゃんが頭の中に浮かんできて、それに「大嫌い」って言う自分が現れるからだ。
本当は嫌いなところなんてない。頭はおかしいと思うし、その愛情表現の激しさは大丈夫なのか心配ではあるけれど、嫌いなんて思っていない。
戻って来たら本気で謝らせて、1発ぶん殴って許してやる。俺はリカちゃんと違って心が広い男だから、今回は大目にみてやっていい。
そんなことを考えながら1人で寝転ぶベッドは広すぎて、どうしてこんな大きなベッドを買ったのか、それにさえイライラした。
いつもは寝苦しいって文句を言う締め付けがなくて、腕枕じゃない本物の枕が柔らかすぎて寝付けない。
目を閉じて、眠れなくて目を開ける。何も連絡がきていないことに落ちこんで、目を閉じる。
ベッドサイドに置いたままの課題図書。全然進んでいない栞が、少しだけ見えてため息が出る。毎日2人で読み進めようと言っていたくせに、そいつが帰ってこないなんて無責任すぎるだろう。
「あのバカ……俺が単位落としたら、あいつの所為だ」
初夏の夜は暑い。
けれど、隣に誰もいない俺のベッドは快適だ。
心が感じる温度を無視して、身体は静かに落ちていく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
937 / 1234