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「桃ちゃんはどこまで知ってるんだっけ?」
俺からは桃ちゃんに鹿賀のことを話していない。というのも、あいつが来てから遊びに来たこともないし、たまに会ってもちょっと話をして別れるからだ。
だから桃ちゃんが知っている情報は、全部リカちゃんから発信されたものしかない。
歩によって底辺まで落とされた顔を上げる。向けた先にいる桃ちゃんは、白い指を顎に当て、考える素振りを見せながら答えてくれた。
「えっとね、確か生意気な問題児君を預かることになって、ウサギちゃんとの時間が減って死にそうだっていうのと……あと、その生意気君と違ってウサギちゃんは生意気だけど可愛くて、最近は本を読んでって頼まれたって。それがまた可愛くて、やっぱり死にそうってことかしら」
「それまともな情報ないっすね」
「そうね。あたし、最近はリカの言ってること聞き流しちゃうもの」
呆れる歩と肯定する桃ちゃん。そんな2人と違って、俺の気分は少しだけ上がる。
リカちゃんも寂しかったんだって喜んでしまう本音が湧き上がってくる。
「慧、お前ニヤニヤしてる場合か」
「なっ、し、してない!」
それを歩に指摘されてしまったけど、緩んでしまうものは仕方ない。どんな状況でだって、嬉しいことがあると、それを隠すのは難しいものだ。
説明を促す桃ちゃんに向かい、最近の状況と鹿賀に言われたこと、そしてリカちゃんと言い合ったことを話した。けれど桃ちゃんは、なぜか渋い顔をして首を捻る。
「納得がいかないわ。確かに2人に意見の相違はあるかもしれないけど、それだけでリカが出て行くとは思えない。それ以外にも何かあったんじゃないの?」
「そ、れは……」
本当は言いたくなかったこと。まさか強引に抱かれたなんて、桃ちゃんにも歩にも言いたくない。
けれど鋭い2人は俺が何かを隠していることに気づいている。肝心なところを言わずに、なんとかごまかそうとする俺に真正面から視線を向けてくる。
「ウサギちゃん」
「慧」
なんで、こういう時だけ揃うんだろう。いつもは正反対の反応を見せるのに、こういう時だけは似ている2人が嫌だ。
言わなくちゃ駄目なんだろうか、別の言葉でどうにかできないだろうか。必死に頭を回転させて考えるけれど、それは俺の苦手分野だ。嘘をついたって、確実にバレるに決まっている。
「あの、なんていうか……その…」
口がむずむずする。言おうとした言葉はすんなり出てこなくて、「あの」と「その」ばかりが出てしまう。
「俺、あの……リカちゃんが、その……」
ぎゅっと目を瞑って、サラッと言ってしまえばいい。何てことないように。気にしてないんだって感じで言えばいい。
「出て行った鹿賀を探しに行こうとしたら、縛られちゃって、だから嫌いって言ったらリカちゃんキレて。そのままエッチしてリカちゃん出て行っちゃうし……あ、でも痛かったけどそれは俺だけじゃないし、リカちゃんだって痛かったはずで。最後は気持ち良かったからいいかなって」
途中から何を言っているかわからなくなった。とにかく何かを言わなきゃと言葉を紡いでいた俺の目の前に、桃ちゃんの手がやってくる。
すっと伸びてきたそれは『ストップ』の合図だった。
「つまり。リカはウサギちゃんを縛って犯したってことよね?」
「おかし……」
「嫌がるウサギちゃんの動きを封じて、同意なく事を致したってことよね」
桃ちゃんから冷たい空気が漂う。歩すら固まるほど怖い顔で笑った桃ちゃんは、ふっと息を吐いた。
もう俺の隣に優しい桃ちゃんはいない。いるのは桃太郎さんだ、それも怒りで震える桃太郎だ。
「いつかはこんな日が来るかもしれないって思ってたんだよ。あの異常者のことだから、何かしでかすかもって……その時は、俺がこの手でって思ってた」
桃ちゃんの口から『俺』が出る。完全にオネェの口調は消え、溢れ出ていた優しさもなくなった。
あるのは、迸るほどの怒りだ。
「あいつは何処に行った?」
「え…あの、桃ちゃん」
「あいつは今、何処で何をしてんだって聞いてる」
それを訊ねに来たのは俺の方なのに、桃ちゃんは俺に詰め寄ってくる。じりじりと、でも確かに近くなる距離に怯えて後ずさると、俺たちの間に入ったのは歩だ。
「桃さん、兄貴が本気で犯してたら今頃慧は死んでるから。動けるってことは手加減したんだろうし、多分途中から同意だったはず」
「だからって無理矢理始めたことに変わりはない」
「どうせいつも兄貴に言いくるめられてんだから、大して変わらない。今回はその度合いが大きかっただけ……だよな、慧?」
歩の台詞に何度も頷き、同意だって伝える。このまま首が取れるんじゃないかと思うほど繰り返すと、やっと桃ちゃんの動きが止まった。
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