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「うーちゃん、今日もまたご機嫌ななめ?」
幸が横から俺の頬を突く。それを振り払って幸とは反対側を向き、俺は無視をした。それは別に幸が悪いわけじゃなく、リカちゃんに何て伝えたらいいか考える為だった。
『幸みたいになれ』は絶対にまずい。バカな俺でも、そんなことを言ったらどうなるか、考えなくてもわかる。
じゃあどうすればいいのか……どう言えば変に勘違いして、意地になっているリカちゃんの目を覚ますことができるのか。
必死に考える俺の頬を、幸の指が何度もノックする。数回は耐えたそれだけど、気になって仕方ない。
「幸、うざい」
「ウサマルが無視するからやん。怖い顔してたら、幸せ逃げてくで」
見本のような笑顔を浮かべた幸の鼻を摘まんでやった。驚いた幸が寄り目になり、その間抜けさに笑ってしまう。
「ぶっさいく。幸って寄り目は似合わないんだな」
「寄り目が似合うってどんなんやねん。ってか、抓む力強すぎ」
「鼻が高くなって良かっただろ?」
「これ以上高くなったらピノキオやん。幸くんの鼻が高すぎて、ちゅーしにくいって言われたら責任とってくれんの?」
冗談には冗談で返してくれる。それは鹿賀やリカちゃんはしてくれないことで、幸ならではの返事だ。だから俺は幸と一緒にいると安心するんだと思う。
「責任なんかとるかバーカ」
呆れて言えば、幸はわざとらしく口を押さえる。
「酷い……っ!こんなにウサマルに尽くして、ウサマルに一途やのに!」
「気色悪い。寧ろ毎回のようにレポート見せろって言われてんの俺なんだけど」
「せやな。俺、うーちゃんおらな確実に単位落とす」
だから今回も見せて、と差し出された両手。もう慣れた展開に渋々ながらも鞄からレポートを取り出す。俺がそれを渡すよりも早く、頭上から影が振ってきた。
見上げた先には緩く巻いた髪に、派手じゃないけど地味でもない化粧をしている子。いつも幸に話しかけてくる女とは違う、露出もなければ香水の匂いもさせない子がいた。
「私ので良ければ見る?」
騒がしい部屋の中で、その小さな声はきっと俺と幸にしか聞こえない。自分から行動することに慣れていないんだと、俺でもわかった。
「いつも兎丸君のだとバレちゃうかもしれないから……だから、私ので良ければ」
「そういうのって誰にでもしてあげんの?」
絶対にそんなことないのに、幸は気づいていないのか彼女に訊ねた。小さく首を振った彼女は、小さな声で「蜂屋君にだけ」と答える。
その白い頬が赤く染まり、差し出した手は緊張で震えていた。
勇気を出してここに来て、自分から話しかけたんだろう。それほど幸が好きで、幸と関わりたいんだろう。
騒ぐのではなく、静かに告げてくる彼女は俺から見たら健気でいい子に見えた。
幸だからした行動。幸にしかしない行動。それの理由は『好き』以外に考えられない。
見た目は軽薄そうで人付き合いが激しい幸に彼女が合うかはわからないけれど、友達として『この子ならいいかもしれない』と思った。
それなのに幸は軽く首を振り、受け取ろうとしない。震える手で差し出されたそれは、幸と彼女を繋がない。
ふぅ、と息を吐いた幸は薄く笑う。人に好かれる優しい目をして彼女を見上げ、表情を全く変えずに言った。
「ごめんな。知らん人からは何も受け取ったあかんて、死んだ婆ちゃんの遺言やねん」
穏やかな声であからさまな嘘をついた幸に、震えていた彼女の手が止まる。
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