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俺と拓海が似ていない、似ていると言い合っているうちに当事者の鹿賀は違うことに興味を惹かれたらしい。部屋の隅に寄せられた生首マネキンをじっくりと見て、恐る恐る手を伸ばす。
けれど寸前のところで拓海を見た。
「あの……これ、触っても大丈夫ですか?壊れたりしませんか?」
「ん?ああ、別にいいよ。それ先輩から貰ったやつだし、ってか触ったぐらいで壊れないって」
へらりと緩く笑った拓海が生首を鹿賀に手渡した。
近くで見るともっと気味が悪くて、俺は視線を外すしかない。それなのに、さっきまで一緒に怖がっていたはずの鹿賀は、興味津々とばかりに生首を見つめる。
「鹿賀っち、こっち系に興味あんの?」
いつの間にか『鹿賀っち』なんて呼びだした拓海が問いかける。すると鹿賀は頷くとも首を振るとも違う動作をした。自分でもよくわからないって感じだ。
「興味というか、初めて見ました。美容師……になりたいんですよね?」
訊ねた鹿賀に拓海が頷いた。中学の頃からの夢だと自信たっぷりに答え、それを聞いた鹿賀は複雑そうな顔をする。
「夢…そんなの考えたことないです、僕」
その顔が少し寂しそうに見えて、思わず俺は口を出してしまう。
「別にいいんじゃね。お前ほど頭良かったら、今考えなくても何にでもなれるだろ」
学校で1番頭のいい鹿賀。俺と違って大学は選び放題だろうし、何にでもなれる可能性がある。少し皮肉交じりに言ってやると、鹿賀が首を振った。
「僕、本当は頭良くなんてないんです」
「は?トップが何言ってんの?また嫌味かよ」
「そうじゃなくて……。なんというか、うん……まあ」
歯切れの悪い鹿賀の返答に苛々する。それが伝わったのか、鹿賀は生首から手を離して俯いてしまった。
部屋に嫌な空気が流れ、俺は自分の言ったことを後悔した。別に鹿賀は何も悪いことを言っていない…ただ、俺が嫉妬しただけだ。
苦労しても叶わないことはたくさんある。でも、鹿賀はそこに手が届く。高校生の頃の俺よりも簡単に、楽に手が届く。それが少し悔しかっただけ。
その嫌な空気を打ち消したのは、拓海の明るい声だった。
「難しいことはわかんないけど。夢って考えるもんなの?例えば甘い物が食べたいとか、何か飲みたいとかって考えたりしないじゃん。なんとなく思うだけじゃん?」
「拓海?お前急にどうした?」
「いや、鹿賀っちが難しいこと言ってるなと思って。俺が美容師になりたいって思ったのって、実は歩と慧のおかげなんだよね」
「どういうこと?」
「ほら。俺って歩や慧と違って普通だから。背も低いし、顔だってイケメンじゃない。元々の素材がいいやつは黙っててもモテるけど、俺みたいなのは自分から行動しなきゃ駄目だし」
にっこり笑って言った拓海の言葉を整理すると。
自分は黙ってたらモテないから、モテる為に美容師になりたい…ってことになる。せっかく感心した鹿賀が、それに呆れないか怖い。
呆れて拓海のことをバカにするんじゃないかって心配で盗み見た。
けれど俺が見た鹿賀は、真顔で拓海を見つめていた。さっき生首を見ていた時と同じ、キラキラした目で。
「理由なんてなんでもいいんじゃない?なりたいと思ったから目指す、違うと思ったらやめる。なりたいと思っても諦めなきゃいけない時は来るかもしれないんだし、あんまり難しく考えたら疲れるだけだろ」
あっけらかんと言い放った拓海は、鹿賀の持っていた生首マネキンの頭を撫でた。その手つきは、さっき聞いた理由が嘘だと思うぐらい穏やかで、愛情たっぷりで、拓海が本当に美容師になりたいんだなって伝えてくる。
……生首相手に愛情たっぷりだっていうところは少し怖いけれど。多分それを言ったら怒られるから黙っておこう。
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