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俺はリカちゃんに幸になってほしいんじゃない。幸みたいに人を傷つけない優しさを持ってほしい。それをどう伝えたらいいかわからなくて、思ったことをありのまま伝えた。
「……で、リカちゃんがからかってきて、言い合いになって。リカちゃんが幸になるって言ったから、それだったら、リカちゃんじゃなくて幸と付き合えばいいじゃんって言った」
全てを告げて数秒、拓海が吐息と共に俺の名前を呼ぶ。
「慧。なんかさ、色々と言いたいことが溢れてんだけど。とにかくまず1つ言わせて。お前バカ過ぎ」
「はあ?!」
「どこに恋人と他を比べて、恋人の方を駄目だって言うやつがいんの?そんなのリカちゃん先生じゃなかったら、その場でフラれるに決まってる」
「俺は比べてない!!見本にしろって言っただけで、リカちゃんが駄目だなんて言ってない!」
「一緒だよ。言われた方はそんなこと関係ない。今大事なのは、相手がどう受け取ったかだろ」
厳しい拓海の一言。笑顔もなく、真剣な表情で言われたそれが胸に突き刺さる。
だって、拓海は間違ってない。俺がもしリカちゃんに同じことを言われたら怒って怒鳴って、リカちゃんのバカ野郎って殴るかもしれない。いや、殴る。
けれど俺にも譲れないものはあって、今までとは違った理由がある。自分だけのワガママじゃないって気持ちがあるから、簡単には折れたくない。だから言い返すしかなかった。
リカちゃんには歩が味方した。俺にはこうやって拓海が話を聞いてくれる。
でも……でも、あいつには誰も味方がいない。そう思うと、どうしてもわかってほしかった。
気まずくて向けられない顔。そこから悟ってくれたのか、張り詰めていた拓海の雰囲気が少し和らぐ。
「その感じなら、慧だって自分も悪いってちゃんとわかってんだろ?」
「……言い方は悪かったと思う。でも、他に見つからなかった」
「見つからなかったなら見つかってから言えば良かったのに。元は歩が鹿賀っち追い出したからだとしも、そこまで言い合う必要ないじゃん」
そうだけど。そうなんだけど、時間がない。
「だって、もう少ししたらいなくなるから」
言い訳じみた物言いに、拓海が首を傾げる。
「いなくなるって誰が?」
聞かれて頭に浮かぶのは、初めて見た時の生意気な目。万引きなんてしようとしたくせに言い返してきて、俺をバカにしたあいつの姿。最近だと少し可愛げが出てきて、それと同時に可哀想なところも知った。
でも……でも、もう少ししたら、あいつは1人になる。
「鹿賀が……あいつ、すげぇ可哀想なんだよ。親と喧嘩して、友達もいなくて。リカちゃんと俺とは話せるのに、リカちゃんが鹿賀に優しくするのは俺がそう言ったからで…でも鹿賀は嬉しそうに笑ってて」
全然整理できていない言葉。さっき言い方を見つけてから話せって言われたのに、俺の口は止まらない。
「最初は何を考えているのかわかんなくて大嫌いだった。リカちゃんとあいつが仲良いと腹立ったし、それでリカちゃんにも当たったけど。でも話したら結構いいやつで……俺あいつのこと放っておけない。だって鹿賀は──」
『すごく可哀想なやつだから』
それが声になることはなかった。
「僕がどうかしましたか?」
タイミング悪く帰って来た鹿賀がドアを開けて肩を揺らす。その額には汗が滲んでいて、走って来たんだろうなってわかった。
出会った頃の鹿賀なら絶対にありえない。拓海の願いを聞くことも、俺に従ってこの部屋に来ることもない。
「なんて顔してるんですか。ほら、この前美味しいって言ってたアイス買って来ましたよ」
手渡されたのは俺が前に美味いと言ったチョコアイス。独り言だったはずのそれを覚えていて、選んでくれた鹿賀が緩く笑う。
どうしてリカちゃんは、鹿賀に優しくできないんだろう。
こんなに懐いてくれてるのに。こんなに可哀想なやつなのに。
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