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アイスを手渡してくる鹿賀の手。受け取った時に少しだけ触れたそれは、驚くほど熱くてどうしてか笑ってしまった。
「また笑ってる。今日の兎丸くん、変です」
気づいた鹿賀が不思議そうに俺を見る。
「いや、鹿賀って本当は優しいところもあんだなと思って。リカちゃんに分けてやれよ」
でも、分けると今度は鹿賀の優しさが減るから、元の生意気に戻るかもしれない。今みたいに一緒にゲームをする時間がなくなって、また嫌味ばっかりになるかもしれない。それはそれで嫌な気もする。
そんなことを考えていると、鹿賀は俺の冗談を本気で捉えてしまったらしい。俯いてコンビニの袋を見つめ、動こうとしなかった。
「鹿賀っち、それ貸して。冷凍庫に入れなきゃ溶けちゃうから」
拓海が立ち上がり鹿賀の手から袋を奪う。そして、その反対の手に持っていたスマホを掲げた。
「悪いけど、俺ちょっと学校のやつと電話してくる」
「は?お前この時間に電話って迷惑だろ?」
「この時間に押しかけてきたやつが言う?30分以上かかると思うから、適当にしててくれていいよ。寝るなら勝手に布団敷いちゃって」
ヒラヒラと手を振った拓海が出て行く。残された俺は、まだ立ったままの鹿賀を見上げて声をかけた。
「とりあえず座れば?あ、お前のアイスも拓海持って行ったんじゃねぇの?」
「いや……僕の分は買ってないんで大丈夫です」
「は?わざわざ買いに行ったのに自分の分は買わなかったのか?」
この暑い中コンビニまで走って、人の分だけ買うなんてどうかしている。俺だったらアイスとジュースとお菓子まで買って、好き放題して帰ってやるのに。
やっぱり鹿賀は変だ、という結論をつけてアイスの蓋をめくると、白と茶色の綺麗なマーブル模様が現れた。それをできるだけ崩さないよう、慎重にスプーンを入れる。
1口目を口に含み舌の上で溶かしていると、やっと鹿賀が口を開いた。
「僕は優しくなんかないです」
はっきりと言った鹿賀。けれどその表情は、俯いたままで見えない。
「鹿賀?」
「僕は優しくもないし、勉強ができるわけでもない。誰かのことをバカにできるようなやつじゃないし、いつもバカにされるのは僕の方だ」
「お前急にどうした?」
突然話し始めた鹿賀の腕をとる。すると、すぐさま逃げる。
俺が名前を呼ぶと鹿賀は肩を跳ねさせる。ビクッと大きく震えて、それが小刻みになった。何かを堪える鹿賀の手が、固く拳を握った。
「僕が」
声を絞り出し、鹿賀は続ける。
「僕が本当に優しかったら、こうなる前に話せてた。どうして先生が僕を家に入れてくれたのか、その間に先生が何をしてくれていたのか。2人が喧嘩しないようにできた」
「鹿賀?ちょっと落ち着けって」
「でもしなかった。兎丸くんと話せるようになって、何回もチャンスをもらったのに。自分の口から言った方がいいって……兎丸くんなら聞いてくれるから、わかってくれるからって言われたのに」
「だから誰に?お前は誰の話をしてんの?」
鹿賀が話す『先生』の正体。そんなの誰かなんて決まってるのに。けど、その台詞の中身がぐちゃぐちゃで、鹿賀のくせに整理ができていなくて。
誰の話だって訊ねた俺に、ようやく鹿賀が顔を上げる。もう我慢なんて無駄なぐらい目に涙を溜めて、それでも唇を噛み締めている。
「──っ……優しいのは、本当に優しいのは獅子原先生なんです。だから、先生を悪く言わないでください。兎丸くんだけは……兎丸くんだけは悪く言わないで」
掠れた声で告げてきた鹿賀の声が、その苦しさを嫌でも伝えてくる。
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