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鹿賀が俺に向かって頭を下げる。そして小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。
「それは何に対してだよ。家に押し掛けたことなら、俺だって納得したんだし謝らなくていい」
「違いますよ」
顔を上げた鹿賀はもう泣いていなかった。
「僕は黙ってくれる先生にも、普通に接してくれる兎丸くんにも甘えてました。自分からは行動できないくせに、自分のことだけを考えて距離を見誤った。だから先生は怒ったんだと思います」
「そんなの、そんなのお前は悪くないだろ」
俺の言葉に鹿賀は頭を振る。自分の間違いを素直に認めた鹿賀は、今まで見てきた姿とは全然違って、すっきりとした顔をしているように見えた。そんな鹿賀を、もう可哀想な子供だなんて思えない。
肩の荷が降りたのか、鹿賀はホッと息を吐き出す。緩く笑った顔は、初めて鹿賀の写真を見た時と同じだ。
照れ臭そうで、でも少し嬉しそうで不安そうな顔。俺からの返事を待っているのだとわかって、こちらが照れる。面と向かって友達になりたいなんて、言われ慣れていなくて困る。
「あー……1つ、聞きたいんだけど」
だから話を変えてしまった俺は、気になっていたことを鹿賀に訊ねることにした。
「お前のことを友達だって言いながら、家に1人にはさせないって酷くないか?よくそこに納得したよな」
いくらリカちゃんが神経質なほど綺麗好きだとしても、あれはやり過ぎだったと思う。家の物に極力触るな、リビング以外は入るななんて、鹿賀のことを疑っていると言っているようなものだ。
それを指摘すると鹿賀は困ったように笑った。
それは呆れたように、と言った方が近いかもしれない。
「ああ……そのことですけど」
一息入れた鹿賀が続ける。
「あれ、全部兎丸くんの為ですよ」
「は?俺がどこに関係してんだよ」
「もし家で何か無くなったら、兎丸くんは間違いなく僕のこと疑いますよね?僕が犯人だって決めつけて、きっと無理に追い出したはずです」
それは鹿賀の言う通りだから反論できない。俺は絶対に鹿賀を疑ったと思うし、こうして話すことなんて無理だろう。後から本当のことを聞かされたとしても、何をいまさらと思ってしまう。
「……ん?ちょっと待て」
言われたことを受けとめて気づいた。鹿賀は俺の為だって言ったけど、ちょっと違うんじゃないだろうか。
「それ、お前の為だろ。お前が疑われないようにって意味じゃないのか?」
「え?」
「どう考えてもお前の為だろ。なんで俺が出てくるんだよ」
パチパチと瞬きをした鹿賀が首を傾げる。その仕草を見つめていると、鹿賀はふっと笑った。
「兎丸くんって、本当にバカですよね。そこを気遣ってくれるなら、初めから僕が家のお金を盗んだことだけ除いて話してくれてますよ」
「そうか?」
今度は俺が首を傾げて訊ねる。すると、さっきまで泣いていたのに、今は偉そうに目を細める鹿賀は頷いた。
「先生が僕と約束してくれたのは仕事だから。もし兎丸くんが関係してくることなら、先生は間違いなく兎丸くんを優先します。先生は優しいけど、そういうところはシビアです」
「いや、でも……」
「兎丸くんは怒ると考えずに喋るから。勢いだけで怒鳴って、後から後悔しないように余計なことは言わなかったんじゃないですかね。全部憶測ですけど」
ハッと鼻で笑った鹿賀が、一瞬だけ歩に重なって見えた。でも、そんなことをここで言ったら確実に怒らせるなんてわかっている。だから黙った。
鹿賀が俺の為だって言うなら、それでいい。そう思っている方が、俺だって無駄な嫉妬をせずに済む。
「あのさ。お前、確かリカちゃんに他人って言われたんだっけ?」
問いかけると不服そうにも頷く。俺が言うのも変だけど、すごく子供っぽい様子で。
「すごく怖かったですよ。いつもと別人でした」
「それな。俺も怒られた時は今でも怖いから。でも、リカちゃんはそういうの引きずるタイプじゃないし、お前のことが本気で嫌だったら叩き出してるから大丈夫だろ」
なんで俺が鹿賀のフォローしてるんだろうって思いながらも、口が勝手に開く。本当のことを聞かされた後でも鹿賀のことを何とかしてやりたいと思ったし、懐いてくれたのが嬉しかったからだ。
自分と似ているとも思うし、俺はこんなに子供じゃないとも思う。
それでも必死に、リカちゃんと仲直りしてくださいと言ってくれた鹿賀は、俺より素直だ。嘘をついてごまかして、また嘘をついてしまったけど……それが駄目なことだと気づいているから良いんじゃないかと思う。
「俺、鹿賀のこと好きじゃないけど嫌いでもないし。でもゲームするときは役に立つから、たまには遊びに来たらいいんじゃねぇの。何て言うか……ゲーム友達、みたいな感じで」
ああもう、こういうのは性に合わない。早口にはなるし、小声だし、みたいな感じとか意味わからないし。けど、こんな言い捨てた台詞にさえ、鹿賀は嬉しそうに笑うから厄介だ。
普段ツンツンしてるくせに、急に素直になるなんて厄介でしかない。手のかかる弟みたいな鹿賀に、俺の方がペースを乱されてしまう。
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