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「話は終わった?」
少しだけ開いた扉の隙間から拓海が顔を覗かせる。そして、俺と鹿賀を見比べ、ムッと眉間に皺を寄せた。
「慧、年下をいじめるなんて駄目だろ。弱い者いじめ反対」
「してねぇよ。それより、電話が終わったんならお前も一緒に考えろ」
手招きして拓海を中に呼ぶ。俺の前にちょこんと座った拓海に、鹿賀とリカちゃんの話をした。もちろん、鹿賀が不登校になった理由は俺からは話さない。それは鹿賀が話したいと思ったらでいいし、拓海もそんなことを聞いたりしない。
うん、うんと頷いた拓海が俺を見て目を細める。
「そんなの答えは簡単だろ。慧がリカちゃん先生に謝って思ってることを言う、はい以上!」
「はぁ?リカちゃんだって俺に内緒にしてたのに、なんで俺が謝んの?」
「理由が違うからだろ。先生のは鹿賀っちのことを思って敢えて言わなかっただけで、慧の優しくない発言は完全に勘違いだったわけだし」
それはそうだけど、言わなきゃ勘違いしたって仕方ないんじゃないだろうか。リカちゃんがきちんと説明してくれていれば、ここまで話がこじれることはなかったし、俺だって幸と比べたりはしなかった。
だから納得いかない。いかないから頷けない。腕を組んで拓海から顔を背け、拒否の体勢をとる。
「慧、もしリカちゃん先生が慧と他を比べたら嫌だろ?」
諭すような拓海の助言も、俺には効果なしだ。
「それとこれは話が別だ。その時になってみなきゃ、わかんない」
「嫌に決まってんじゃん。自分がどれだけ心狭いかわかってる?リカちゃん先生より、慧の方が束縛しまくってるのに……」
はあ、とため息をついた拓海は俺から視線をそらし、鹿賀に向かって「なあ」と同意を求める。鹿賀は曖昧に頷いたけど、その目は拓海と同意見なのが丸わかりだった。
「とにかく、俺だけが謝るのは間違ってる」
「どうせ慧だけじゃなく、リカちゃん先生も謝るって。先生は慧には甘すぎるからな」
「どこがだよ。鹿賀とのことと、俺とリカちゃんの問題は別だろ。あいつが勝手に嫉妬して暴走して、鹿賀と俺に八つ当たりしたのに。なんで俺だけが謝んなきゃ駄目なわけ?」
自分で呼び込んだくせに矛盾しまくっているリカちゃん。それをぶつけられても、俺は困るし腹立つし、だから優しくしてやれって言っても間違ってはない。
言い方については謝ってもいいけど、俺から折れるのは嫌だ。
「どうせ今頃リカちゃんも、歩と2人で仲良くしてんだよ。その証拠に連絡こねぇしな」
鳴らないスマホを持ち上げれば、拓海はまたため息をついた。
「慧さぁ、その発言が嫉妬してるって気づいてる?リカちゃん先生が慧より歩を優先するわけないだろ」
「それはどうだかな。これだけ言い合った喧嘩なんて初めてだし、リカちゃんも嫌気が差したんじゃねぇの」
口から出た強がり。心では絶対に嫌だと思いながらも言った俺に、鹿賀が大声を上げた。
「そんなこと絶対にないです!!」
ローテーブルに手をついて身体を起こした鹿賀は、俺を正面から見る。
「先生が兎丸くんを嫌いになるわけないです!ちゃんと指輪もはめてるし、からかわれても外さないし、なんなら自慢してるし……」
「指輪?リカちゃん、仕事中はしてないはずだけど、それ何の話?」
あ、とあからさまに口を開いた鹿賀が縮こまる。けれどもう隠せないとわかったのか、堪忍したように尻すぼみな声で答えた。
「……先生、学校で付けてるんですよ。でも兎丸くんには内緒って」
「なんで俺に内緒なんだ?」
「だって、兎丸くんはうちの高校に教育実習で来るかもしれないじゃないですか。その時、獅子原先生に相手がいた方が怪しまれないって。自分は兎丸くんを特別扱いしちゃうから、今の内に環境を整えとかなきゃって言ってましたよ」
行くとしても何年後の話だよって気持ちと、特別扱いしちゃ駄目だろって常識と、どこまで考えて行動してんだよっていう感心が入り混じる。そんな俺の気持ちを代弁したのは、拓海の、
「リカちゃん先生って、どんな時でもリカちゃん先生って感じ」
この一言だった。
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