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聞かれたことに首を振る。涙はすっかり乾いて、俺は幸の話に夢中になっていた。
「初恋の女の子が転校した理由を俺が知ったんは、中学3年の夏。部活を引退して、久しぶりに小学校の時の同級生と遊んだ日やった。そいつは俺が好きやったって知らんくて、たまたま話に出ただけやった」
「……なんで?いなくなった理由は?」
ふっと、息を吐いた幸は俺から視線をそらさない。
「いじめ」
3文字の言葉を紡いだ幸の唇が歪む。一直線にしようとして、けどできなくて端だけが下がっていた。
「どこでもクラスの中心になるグループってあるやん?その中に俺のこと好きやった子がおって、その子にいじめられたらしい。教えてくれたやつに悪気はなかったけど、俺は……俺が悪いって言われてる気がした」
「それはちがっ」
「俺がその子にだけ話したから。他の子と話されへんのを変えようとせんと、その子にだけは話せたから。だからいじめられた。自分の好きな子を盗られたって、そんな勘違いでいじめられて、学校に来るのが嫌になって転校」
「でも。理由はそうでも幸は悪くないだろ」
「中学の時の彼女も、俺をフッた子も。みんな悪口言われて、でも優しい子やったから我慢してた。俺に相談もできんくて、1人で抱えこんで……その隣で俺はずっと笑ってた。笑って、好きやって言っては困らせた」
もし自分が理由でってなったら、俺はどうするだろう。
俺は悪くないって言って、そんなの関係ないって言うかもしれない。けど、自分の好きな相手にそんなこと言えるかは、正直わからない。
わからなくて閉じた口。俺が何も言わないことを幸はどう思ったのか、また微かに笑う。
「だから高校は地元から離れてこっちに来てん。誰も知らんところで、誰も知らん自分でやり直そうって。今までみたいな俺じゃなく、誰とも話せる自分になって誰も困らせんようにいようって」
「誰も困らせないって?」
「誰も好きになれへん、みんな平等でみんなに優しくして、敵なんか作らへんって決めた」
それは今の幸そのもので、俺が素直に凄いと思ったもので、そしてリカちゃんに求めたものだ。
その理由の元がこんな話だなんて知らず、ただ純粋に幸の性格だと思っていたものだ。
「それで上手くいったのか?その、変わろうって計画は」
俺が求めたものは正解だったのか訊ねる。俺がリカちゃんに押しつけた理想は、間違いなかったのか。その答えは聞かなくても幸の表情を見てわかった。
瞼を伏せた悲しそうな顔。今までの幸からは見たことのない、すごくすごく悲しそうな顔で呟く。
「1番大きな失敗。いじめの原因作って、いっぱい困らせたけど……初めて、初めて消えたいって思ったんは高校の時やった。あの時ほど、なんで生きてるんやろって考えたことはない」
「幸、お前、自分で言った言葉の意味わかってんのか?」
「俺な、それまでは自分が悪いと思う気持ちと、俺も被害者やって思う気持ちが半々やってん。いや……ほんまは被害者やと思ってた。そう思えば楽やった」
幸の口から絶対に出ることのない単語が出た。明るくて人気者で、いつも俺の話を聞いては助けてくれた幸の口から、絶対に出ちゃ駄目な言葉。限りなくマイナス意見に近いそれに、胸が痛くなって声が震える。
「冗談でもそんな事言うのはやめろよ。笑えねぇって」
軽く睨んで止めるけど、幸は止まらない。ずっと隠してきた理由が幸の口から次々と零れる。
「前に駅で会ったやつ、あいつが高校でできた初めての友達。誰にでも愛想よくする俺を怒って、昔の話をしても俺は悪くないって言ってくれたやつ。俺が、初めて何でも話せた……俺の特別」
そこに恋愛感情はないってわかっているのに、幸からの『特別』はとても重たい。
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