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「あいつは部活でキャプテンやってて友達も多くて、幼馴染の子と付き合ってた。小さい頃から一緒なだけあって、めっちゃ仲良くて、このまま結婚するんちゃうかって言われてた……けど」
続く言葉に嫌な予感がする。きっと俺の予想は当たっていて、今だけは外れてほしいと思った。それなのに、こういう時ほど命中するのが現実だ。
すう、と息を吸った幸が見るのはまた窓の外。遠くの方を見つめながら語るのは、まるで映画のような話。
「ある日あいつと彼女と俺の3人で教室で話してて……あいつが呼び出されて、彼女と2人になった。そしたら一気に雰囲気が変わってん。いつもはあった距離がなくなって、名前を呼ばれて顔を上げたら何かが当たった。目の前に彼女の顔があって、その後ろにあいつが立ってた」
一息あけてまた口を開いた幸の声は、色で表すなら真っ黒だ。何の感情も入っていない、ただの音だった。
「俺は友達の目の前でその彼女とキスして、仲良かった2人を引き裂いた悪者。今度は俺が嫌われ者になった。また、俺の傍には誰もおらんくなってん」
──なんで幸が?
多分、俺はそう言ったんだと思う。自分でもわからない程の小さな声で、幸本人に聞いたんだと思う。そんなことを聞かれても、答えられるはずがないのに、俺は幸に聞いてしまったんだろう。
窓の外を見つめていた幸は頬杖をついて口元を隠した。見えないその先で、それはどんな形をしているのかわからない。
悲しいのか、悔しいのか、辛いのか苛々しているのか。幸の考えていることが、全くわからない。
「ウサマルは俺の心の中が見える?」
「え?」
「俺が考えてること、思うこと、誰が好きで誰が嫌いか言わんでもわかる?」
突然意味のわからないことを聞かれて戸惑う。すると幸は、ふっと鼻で笑った。
「あいつと彼女には俺の知らん過去がある。2人だけの絆があって、あいつにとっては俺より彼女の方が大事やった。信じたんは彼女の方や」
「……なんで、何も言わなかった?違うって説明すればいいのに」
「それして何になるん?誰にでもヘラヘラしてる俺を、誰が信じるん?あいつが彼女を大事にしてたんは、みんな知ってる。そこに俺が入って、それで崩れたんなら悪者は俺やろ」
違う、違うと首を振る。すると幸は、口を覆っていた手を外した。
「じゃあ聞くけどな、もし俺がウサマルの彼女とキスしたら?それを彼女が、俺からしてきたって言ったら?それでもウサマルは俺のことを信じてくれるん?」
「それは、わかんない……けど」
「違うって、誤解やって言ったら納得する?今みたいに俺のことを見てくれる?」
次々に問いかけられて苦しい。信じるの一言が言えなくて、本当に苦しい。
だって、俺は多分言えない。もしその場面を目の前で見たら……リカちゃんが「幸からだった」って言ったら、俺はリカちゃんを信じる。
リカちゃんはそんな事をしないって、わかっているから。俺とリカちゃんには、幸の知らない今までがあるから。
だから俺はリカちゃんを信じる。幸の友達がそうしたように。
「 俺の一言はめっちゃ軽い。みんなに同じ態度で、みんなに同じように接してたから軽い。誰も傷つけんようにしたつもりが、自分を1番傷つけた。友達どころか味方もおらん、そんな毎日」
『だから俺も学校を休んで、最後の1年は転校した。これがウサマルの知りたがった、俺の秘密』
そう締めくくった幸は、俺の知っている明るくて余裕ある蜂屋幸とは思えないほど、弱い。
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