アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
170
-
歩が打ったのではない文章が歩から届く。それを黙って見つめる俺の後ろから、幸が声をかけてきた。
「ちなみに歩は今日はバイトらしいで」
「え、じゃあ……なんで」
「何かあった時にいつでも連絡がつくよう、預かってんちゃう?ウサマルは頑固やから自分から連絡なんてせぇへんし」
今この先にはリカちゃんがいて、リカちゃんと繋がっている。そう思うと手放せなかった。これは幸のスマホで、俺のものの中にだって歩の連絡先はあるのに。
それどころか、リカちゃんのものだってあるのに、この簡単な一文がすごく特別なものに思えた。
「俺、リカちゃんとまともに喧嘩したことってないんだよ」
視線は液晶画面に向けたまま、言葉を紡ぐ。
「俺がどれだけ怒っても喧嘩にならなくて、言い合う前に終わる。というか、リカちゃんが本気で怒ったことってないかもしれない……うん、ないな」
リカちゃんは意地悪だし強引だけど、いつも俺を優先する。俺がどうすれば喜ぶかを知っていて、当然のようにそうする。だから、だから今回のことは俺には理解できない。
「リカちゃんが鹿賀のことを内緒にしてたのは、鹿賀の為だってわかった。幸と比べたことを怒るのもわかる。でも何かがわかんない。何がわかんないのか、それもわからなくなってる」
あの鹿賀が泣くぐらいだから、きっとリカちゃんは優しかったんだと思う。俺のいないところでも、学校でも優しくしていたんだと思う。
先生としての時もあれば、約束を守る為の時もあっただろう。どんな方法にしろ、リカちゃんは鹿賀の事を考えて、鹿賀の為になるように行動してきたはずだ。
「前までの俺だったら、鹿賀に嫉妬してた。リカちゃんは俺のものなのにって怒ってたけど、今はそれがないんだよ。なんなの、変わったのは俺か?俺が変わったから喧嘩してんの?」
考え過ぎて頭の中がモヤモヤする。
届きそうで届かない位置に何かが挟まっていて、それがこのモヤモヤの原因なのかもしれない。
知らなかった事実を昨日聞かされた。それがきっかけになって何かが掴めそうなのに、まだ何かが足りなくて手が届かない状況に苛立つ。
これだから考えるのは大嫌いなんだと、一旦諦めようとして気づいた。
俺は、今1人じゃない。隠していた秘密を教えてくれた幸が傍にいる。
「幸。ちょっと長くなるかもだけど……俺の話、聞いて」
リカちゃんのこと、鹿賀のことに俺のこと。ずっと言えなかった話が止まらなくて、殆ど整理できていないまま喋る。
俺には感情的にならないなんて、ハイレベルな能力はなく、思ったことを思ったように、言われたことを言われたままに。
一通り喋り終え、口を閉じて数秒した頃。
隣で聞き役に徹していた幸が一言、落ち着いた声で落とした。
「ウサマルだけが悪いんと違うんちゃう?すれ違って言い合いしてもて、カッとなって家出した。それだけのことやのに、そこまで悩む必要あるん?悩み損やん」
……こいつは本当に俺の話聞いていたのだろうか。ちっとも危機感のないその様子に、昨日までの親身な幸に戻りやがれと言ってやりたい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
987 / 1234