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借りていた幸の服を返し、洗濯を終えた自分のものに着替える。早く早くと促され家を出ると、今日もまた暑い気温と焼けるような日差しが辛い。
まともな荷物なんて一切持っていなかった俺は、スマホと財布だけをポケットに突っ込み、隣を見た。
「なあ、なんでこんなに早くから出かけんの?」
俺がそんなことを聞いてしまうのも無理はない。
別に行きたい所もない、欲しいものもない、今日は幸の仕事が始まるまでダラダラして過ごす予定だったはずだ。それなのに突然出かけると言い出した幸に連れられ、なぜか幸の部屋を後にした。
そして今、なぜかタクシーの中に押し込まれている。
「まあまあ。俺もまさか、こんな早いと思ってなかってんけどな。時間ないから、タクシー使ってでも来いって言われたし」
「言われた?誰に?」
「しっかし、タクシー代は出してくれるってリッチやな。お客さんとして来てほしい……あかん、そんなことしたら俺のお客さんが奪われてまう」
幸の言い方から、誰かと待ち合わせしていることはわかる。そして、その相手は俺と幸の共通の知り合いで、幸に命令できるやつ……そんなの1人だ。
その上、向かっている方角が、どう考えても『あいつ』を示している。
「まさか……お前、歩と組んだのか?!歩に俺を引き渡す気なんだろ?!」
明らかに歩の家へと向かう車。最初に行先を言わなかったのも、俺を奥に押し込んだのも、目的地が歩の家ならば当然だ。
だって、俺と歩は絶賛大喧嘩中なのだから。
「降ろせ!!俺は歩と話すことはない!」
「はいはーい。もう少ししたら嫌でも降りてもらうから。あ、運転手さん、こいつの言うことは気にせんといて」
「いいから降ろせって!それに歩が金なんて払うわけないだろ、考えろよ幸のバカ」
「そんなんウサマルに言われんでもわかってるわ。アホウサちゃん」
ピン、と額を弾かれてその指を掴む。爪を立てるのは申し訳なくて強く握ったけど、あんまり効果がなくて舌を打った。
どれだけ降ろせと叫んでも車は止まらない。こんな時に限って、ほとんどの信号が青でやけにスムーズに進んでしまう。
もっと時間がかかればいいのに。何時間もかかって、歩が諦めればいい。そしてタクシー代が貰えなくて俺を売ろうとした幸に天罰が下ればいい。
でも俺は知っている。神様ってやつは平等なんかじゃなく、意外と気が弱い。俺みたいなのじゃなく、偉そうなやつの言うことをホイホイ聞くんだって、俺は知っている。
「今日もええ天気やなぁ……なあ、休みなったら海に遊び行こうや。俺と歩とウサマルと、しゃあなしリカちゃんも連れて来てええで」
「お前1人で行ってこい。そして帰ってくんな」
「ひっど!俺が人魚姫と駆け落ちしても知らんからな!」
相変わらず、くだらない会話だけがタクシーの車内に飛び交う。
もう降りられないと覚悟した今、俺に残された手段は現実逃避だ。頭を抱えこみ俯いて、何を言われても絶対に外は見ない。
次に顔を上げるのは車が停まった時で、その瞬間に俺は仮病を使ってやる。幸いにも寝不足で顔色は最悪だし、歩ならごまかせるかもしれない……かも、しれない。
そんなことを考え、頭の中でイメージトレーニングしながら時間を過ごす。隣に座る幸が「こんな所なんや」とか「ウサマルの家は見えるん?」とか聞いてくるけど、その全てを無視して過ごす。
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