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さあ行けと言われても、俺はもうこの学校の生徒じゃない。着ているのだって制服じゃないし、許可なんて取っていないのだから躊躇ってしまう。それなのに幸は、俺の背中を押してどんどん敷地内に入っていく。
「おい、幸!誰かにもしバレたら……」
「バレたら何とかしてもらお」
「誰にって、リカちゃんか?!無理だって、いくらあいつでも無理なことが」
「大丈夫。俺、走るのには自信あるし。それにウサマルはここの卒業生なんやから、どうとでもなるって」
全然大丈夫じゃない理由を告げられ、最後まで喋らせてももらえず、とうとう校舎まで来てしまった。
来客用のスリッパを堂々と履き、仁王立ちした幸が一言。
「で、どこ行ったらいいんやろか?」
「──は?」
威張った態度と声で言うのは、本当にどうかしてるんじゃないかと思う台詞。人を強引に連れて来たくせに、どこに行けばいいか知らないなんて。
「お前はどうしてっ、どうしてこんな時だけバカなんだよ!」
「こんな時だけって、褒められてるんか貶されてんのかわからへん」
「褒めてねぇよ!バレたらヤバいのに、行先がわからないなんてっ!!」
とりあえず階段の影に隠れて小声で言い合う。とは言っても文句を言っているのは俺1人で、幸はヘラヘラ笑っているだけだ。
「とりあえず、いつも使ってる教室とかないん?」
そう訊ねられて真っ先に思い出したのは、毎日通った科目室。俺とリカちゃんの思い出の中で、1番に多い場所がそこだ。
ついて来いと幸を後ろに連れ、科目室を目指す。夏休みで教師自体も少ないからか、運よく誰にも会わずに辿りつけて胸を撫でおろした。
でも、まだ完全に安心はできない。
「あかん。鍵締まってるわ」
「だろうな、そう簡単にいくかよ。ってかさ、俺が来ることリカちゃんは知ってるんだよな?」
「ああ、それな。実は言われてる時間より1時間早く来てもてん」
サラッと言いやがった幸が、ドアを背に腰をおろす。
「もう歩くん暑いし、座って待ってよ。ほら、果報は寝て待てって言うやん?」
「俺らが待つのはリカちゃんだろ!1時間も早く来てどうすんだよ?!」
思わず怒鳴ってしまって口を塞ぐ。静かすぎる廊下に俺の声が響くけれど、誰かが来る気配はない。
「幸がここまで無茶すると思わなかった……。もっと落ち着いてると思ってた」
「それは奇遇やな。俺も、ウサマルがここまでヘタレやとは思ってへんかったで」
嫌味に嫌味が返ってきて、軽く睨む。けれど幸の横顔の先に人影を見つけてしまい、睨んだ目は瞬時にそれに釘付けになった。
固まった俺の先を見た幸が唸る。
「なんなん……このクソ暑い中スーツって。あの人、汗かかんの?」
その質問は俺には聞こえなかった。幸の声は聞こえたけれど、何を聞かれたのかわからなかった。
何もわからないほど、前を見つめるのに夢中になってしまっていた。
教科書か参考書か、本を数冊抱えて歩いてくる姿。ふわっと揺れる髪は暑苦しく見えるはずなのに、やけに爽やかで。
「やけに早くない?」
首を傾げる仕草が似合う男。
俺のリカちゃんが目の前に立った。
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