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「連れて来た俺を無視して、なに2人で見つめ合っとんねん。俺がいてるの見えてますかぁ?もしかして、無視してるんですかぁ?」
頭の後ろで手を組んだ幸が、呆れ混じりの低い声で遮ぎる。その仕草と声に、ここが学校の校内で、しかもリカちゃんと喧嘩中だったことを思い出した。
咄嗟に1歩後ずさり、ついつい距離をとってしまった俺の腕をリカちゃんが掴む。
「この赤毛を門まで送って行くから、慧君は中で待ってて。喉が渇いたら机の上にジュースとお菓子あるから、好きにどうぞ」
リカちゃんに腕を掴まれた途端、俺の身体はまた言うことを聞かなくなる。自分自身の意思に反して首が縦に動き、足が勝手に前へと進んだ。
扉を開けると部屋の中から冷たい風が吹いてきて、その奥にはリカちゃんの机がある。整頓された机の上に、俺がよく飲んでいたジュースが置かれていた。
すごく大好きなわけじゃないけど、学校の自販機で買うならいつも選んでいたそれ。覚えていたのかとリカちゃんを見上げると、目が合って微笑まれた。
「鍵、閉めてて」
一瞬だけ頭を撫でた手はすぐに離れ、リカちゃんは幸の横に並ぶ。その身長差は俺との時より少なく、幸が1歳年上だということを除いても、なぜだか2人は近く見えた。
俺とリカちゃんよりも、幸とリカちゃんの方が近い。幸の方が俺よりもリカちゃんに近い。
「リカちゃん」
どうして呼び止めたのかはわからない。進もうとしていたリカちゃんが振り返り、首を傾げた。
「あのだな、その……迷子になるなよ」
「慧君、いくら俺でも学校で迷子にはならないから」
「……そういう意味じゃねぇし」
多分、リカちゃんに意味は通じないだろう。言った本人の俺でさえ、自分で何を思っているのかわからないんだから。
何かが不安で、何かが心配で、何かが気になる。そんなことはないって言い切れるのに、リカちゃんが俺じゃなく幸を選ぶんじゃないかと思ってしまう。
それぐらい、2人の姿が重なって見えた。
「ウサマル、また月曜に大学でな」
右手を上げた幸に頷き、早く部屋の中に入ってしまおうと思った。2人が並ぶ姿を見なければ、こんな風に変な気持ちになったりなんかしない。
リカちゃんが俺以外を選ぶんじゃないかって、脈絡のない不安なんて湧いてこない。
「慧君」
完全に部屋の中に入り、扉を閉めようとしたところで廊下から呼ぶ声がする。それはもちろんリカちゃんで、俺のことを慧君なんて呼ぶのは他にはいない。
「10分で戻ってくるから、寝ないで待ってて。後で一緒に昼寝しよう」
俺がいないと眠れないリカちゃんは、この数日ほとんど寝ていないんだろう。それがわかっているから「うん」とだけ答えて扉を閉める。
鍵をかけないまま、それに凭れていると向こう側から「教師が何言ってんの?」と幸の咎める声が聞こえた。
そこでやっと、幸の方がリカちゃんに近いと思ったことが間違いだと気づく。
誰に言っても信じてもらえないだろうけど、リカちゃんは俺がいないと眠れない。それどころか食事すら忘れるし、部屋はうさぎグッズまみれにするし、捨てようとしたら怒るし。
そんなの嘘だろって言われるに決まってるけど、全て本当のことだ。
何でも出来るくせに自分の為には何もしたがらなくて、1人が平気そうに見えて実は1人は嫌い。
備え持っている才能を無駄遣いするリカちゃんは、かなりバカだと思うけど、それが安心する。
ただ、安心すると同時に心配でもある。
リカちゃんの『普通』に戸惑い、それでも「リカちゃんだから仕方ない」と思ってしまう自分が、ひどく心配だ。
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