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本当のことを言ってしまえば、リカちゃんは俺を好きだと思わなくなるかもしれない。そんな不安が押し寄せて胸が苦しくなった。
「俺はリカちゃんに酷いことを言っても、自分は傷ついてない」
言わなきゃ良かった、黙ってれば良かった。そう思っているはずなのに、口が勝手に言葉を繰り返す。軽蔑されるんじゃないかと心配してるのに、言ってしまう。
この不安を否定してほしくて、必死になってる。
早くその声で「そんなことない」って言ってほしい。「それでも好きだ」と言ってほしい。どっちでもいいから、がっかりした顔はしないで。
その気持ちが溢れているのに、俺には黙って俯くしかできない。顔を上げるなんて、怖くてできるわけがない。
「それは相手が俺だったから」
静かにリカちゃんが答える。
「距離が近ければ近いほど、人は優しくなれない。自分をわかってほしい気持ちが強すぎて、どうしても主張が先行してしまう。今回の歩がそうだっただろ」
言葉を重ねたリカちゃんは、握った俺の手に顔を近づけた。何をするのかと思えば、それを額に押し当てて俯く。
「だから俺は鹿賀を利用した。一面だけで全てを判断してしまう慧に、知ってほしかった。人には裏があるってことや、見せていることが全てじゃないってこと。知らなかったじゃ済まされない、深く関わってしまえば簡単には手を引けないって気付いてほしくて、鹿賀を利用した」
「でも……もし俺が鹿賀と仲良くならなかったら?鹿賀のことを無視し続けてたら、どうするつもりだったんだ?」
リカちゃんは鹿賀と俺が仲良くなることがわかっていたって言ったけど、俺たちが話せたのは偶然だ。偶然にも嫌いな食べ物が一緒で、偶然にもゲームが趣味だっただけ。
だから、リカちゃんが計画してとった行動だとしても、それが実ったのは本当に偶然なんだ。
いつも計算して動くリカちゃんにしては、賭けのような行為。不思議で仕方ない俺に、リカちゃんは得意げに笑う。
「言ってるだろ。自分のことは自分が1番わかってないんだって。慧は優しくないって言ったけど、俺はお前が気づかない優しさを知ってる。どれだけ違うって言われても、誰に否定されても揺らがない。俺は俺の見てきた慧が好き」
こういう時、リカちゃんには俺の心の中が見えてるんじゃないかと思う。欲しい言葉を求めている以上にくれて、しかも断言するからだ。
不安を笑顔で吹き飛ばし、心配を言葉で崩してしまう。そんなリカちゃんの眉が少し寄った。
「自分で仕向けたことなのに、実際に鹿賀に優しくする慧を見て嫉妬した。どうして俺には優しくないんだなんて言って、悩ませてごめん。本当、慧のことになると自制が利かない」
どうやらそれはリカちゃんの後悔だったらしく、謝るように手に擦り寄ってくる。直に伝わってくる「ごめんね」が、余裕たっぷりのリカちゃんにしては幼くて気が抜けた。
「リカちゃんが嫉妬……やっぱり嫉妬してたのか」
ぼそりと呟くと、顔を上げたリカちゃんの目元が少しだけ赤い。
「ずっとしてた。気が合うのはわかってたけど、簡単に仲良くなるし……俺ができないゲームをして、2人で言い合って笑って。いっそのこと約束なんて破って、すぐにでも鹿賀を追い出してやろうかと思った」
ほんの少し、注意して見ないとわからない程度に照れたリカちゃんが言う。
「でも引き受けたからには全うしたい。鹿賀のことも、慧のことも。それが今の俺の役目なんだと思う」
「今の役目?」
「最後のは独り言だから気にしないで」
なんだかよくわからないけど、役目がなんたらってのは、リカちゃんにとって恥ずかしいことらしい。さっきよりも赤くなった肌を隠すように、リカちゃんが顔を背けた。
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