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「俺は元から、鹿賀を全面的に味方するつもりなんてないよ。確かに鹿賀に悪意はなかったかもしれない。けれどあいつは、人の上に立つことに優越感を感じるタイプだ」
「鹿賀が?そんな感じはしないけど……」
「別にそれが悪いとは言わない。ただ、鹿賀の場合は不相応過ぎただけ。自分を偽って得た物を維持するには、それなりの苦労を要する」
つまり、リカちゃんは一度格好つけたんなら最後まで貫けって言いたいんだと思う。鹿賀はそれができなくて友達と揉めたけど、それは鹿賀にも責任がある……って意味なんだと思う。
正解かはわからないけど、俺なりに解釈してリカちゃんの続きを待つ。
「誰だって見栄は張るんだよ。自分を良く見せたくて、多かれ少なかれ誇張する。鹿賀はできる自分を演じて、みんなに良い顔した。それを維持できなかったのは、鹿賀の力不足だ」
リカちゃんの言っていることは正しいけど、でも鹿賀に非があるような言い方は気に入らない。
だって、いじめられたのは鹿賀の方だからだ。悪口を言い回っていたわけじゃなく、鹿賀は話を聞いていただけだからだ。
「だからって鹿賀も悪いとは思えない」
言い返した俺に、リカちゃんが答える。
「それ逆の立場でも言える?仮に、慧君が鹿賀の愚痴を俺に言ってたとする。もし俺が、鹿賀からも慧君の愚痴を聞いていたとしたら?それでも俺のことを自分の味方だと思える?」
想像してみて嫌な気持ちになる。なんだか裏切られたような、複雑な感情が生まれた。リカちゃんは言葉にしなくても察したのか、静かに頷いた。
「鹿賀がしたのは、そういうこと。中立っていうのは最も楽で最も危うい。上手く立ち回れなかったら、最初に潰されるのは自分なんだよ」
「それが鹿賀のしていたこと?」
「そう。自分のついた嘘すら貫けないくせにね。鹿賀が本当にすべきだったのは、嘘をつき続ける覚悟を決めるか、その嘘を本当に変えるかの二択しかない。ついた嘘を許してもらって、前と変わらず接してくれなんて都合が良すぎる」
リカちゃんが少しだけ目を伏せる。髪の色と同じ真っ黒な睫毛が震えて、止まった。
「まあ……どちらを選んでも難しくて厳しいけどな。嘘を重ねることには慣れるけど、騙していることには一生慣れない。見て見ぬふりをして過ごすしかない」
止まった睫毛が上がり、黒い瞳が俺を映す。その仕草に鹿賀の話をしているのではなく、自分の話をしているような気がした。
けれど、それは俺の気のせいだったんだろう。リカちゃんが指を鳴らして、重たくなった空気をぶち壊したからだ。
「とにかく、気が弱いくせにプライドの高い鹿賀はいつも楽な方に逃げた。小遣いが足りないならバイトをすればいいし、学業とバイトを両立しているやつだっている。それは簡単ではないけど、できなくもない。選択肢はいくらだってあったのにね」
リカちゃんの言葉を聞いて思うのは1つ。
「でも、みんながリカちゃんみたいに器用じゃない。両立できるやつもいれば、鹿賀みたいに逃げちゃうやつもいて当然だと思う」
多分おそらく、俺もそのタイプだ。だから──。
「なんか、小さいよな。そんなことで鹿賀を苛めたやつらも、そんなことで逃げ出した鹿賀も。なんか小さい」
率直な意見を言った俺に、リカちゃんが口を開く。
「うん、俺も同じ意見。そんな些細なことで仲間外れにしたやつも、そんなやつに固執する鹿賀も視野が狭いとは思う」
頷いてくれたリカちゃんは「でもね」と一息おいて言葉を紡いだ。
「でも、学校っていうのはそういう場所なんだよ。この狭い空間で過ごして、多くのことを知って、経験していく。限られた場所と限られた人間しか見ていなければ、どんな些細なことでも大きな物に変わるかもしれない。それが全てだと思い込むかもしれない」
立ち上がったリカちゃんが部屋の奥にある窓まで歩いて行き、それを開けた。生ぬるい風が入ってきて、外から聞こえる声がもっと大きくなる。
リカちゃんの声は決して大きくはないけれど、それに負けない。
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