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「同じクラス、同じ部活動、同じ委員会。その全てを合わせたとしても、知り合えるのは数が知れてる。その中には自分に合うやつ、合わないやつがいて当然で、鹿賀は自分に合わないやつと友達になった。この小さな社会が鹿賀の全てだったんだろうね、そこも慧君と似てる」
「どこが?」
「目の前にあるものを掴もうと必死になれるところ。ワガママだけど自分に素直で、強気なのに1人を怖がるところも。だから俺は、鹿賀の中に慧君を感じて、それを放っておけなかったのかもしれない」
リカちゃんが言った後に、金属の鳴る高い音がした。ここ数日聞いていなかったそれは、煙草に火を点けるためのジッポの音だ。同じように数日嗅いでいなかった煙の匂いがして、数日見ていなかった煙を吐き出す横顔を見つめる。
それはほんの数日のことなのに、懐かしいと思えるぐらい身近なもの。全て俺の生活の中にあって当然のもの。他人からすると何てことないものでも、俺にとっては無くてはならない『大きなもの』だ。
比べるのは変かもしれないけど、俺がリカちゃんを見ると安心するように、鹿賀も友達といると安心したのかもしれない。リカちゃんと喧嘩すると泣きたくなるように、鹿賀も辛くて悲しくて、心が痛かったのかもしれない。
俺には虐められた鹿賀の気持ちはわからない。わからないけど、置き換えて考えることはできる。それをすると、自然に胸がズキズキして、心が重たくなっていく……ような気がしないでもない。
「リカちゃんの言うように俺と鹿賀が似てるなら、もう鹿賀は大丈夫だと思う。リカちゃんのおかげで、鹿賀は大丈夫だ」
「本当にそう思う?」
窓の桟に凭れたリカちゃんが問いかけてくる。当然、俺はそれに対して頷き肯定した。鹿賀に聞かされたリカちゃんとの会話と、リカちゃんの様子と、俺が見てきた2人を思い出して頷いた。
それなのに、リカちゃんは首を振って否定する。
「俺は鹿賀に何もしてないよ。全部、慧君が自分で考えて自分で決めたこと。それのおかげで、鹿賀は鹿賀らしく前に進める」
「俺?だって、リカちゃんが鹿賀と友達になってやったからじゃ……リカちゃんが鹿賀に優しくして、鹿賀を守ってやったからだろ?」
「違う、そうじゃない。俺は鹿賀の周りを少し片づけてやっただけで、本当は何もしていない。鹿賀の求めるものを俺は与えてやれないし、理解はしても共感はできない。俺のできないことを、全部慧君がしてくれた」
身体を起こしたリカちゃんは上半身を屈めて、机の上に置いてあった灰皿に煙草の灰を落とす。少しだけ短くなったそれを口元へと近づけるから、てっきり吸うのだと思ったら違った。
「慧君は不器用だけど、真っすぐだから計算したり、損得を考えて行動しない。思ったことを思ったように言って、正面から向かってくる。そんなこと俺には無謀すぎて真似できない」
「無謀……ってバカにしてるよな?どうせ、俺はリカちゃんみたいに要領よくねぇよ」
その意味を訊ねると、リカちゃんは結局、煙草を吸わずに灰皿に捨てた。きっと、煙草を吸うことより俺を優先してくれたんだろう。
いつだってそうだ。リカちゃんの優先順位は俺が1番なのに、時々それが見えなくて、疑って、迷って悩んで不安になる。
もう前のリカちゃんとは違うんじゃないかって不安になって思い知る。
「バカにしてないよ。慧は俺のできないことを簡単にしてしまう。人の悲しみを痛いと感じる優しいところも、人に怒れる素直さも、裏表の無い正直なところも尊敬する。それと同時に嫉妬もする」
「嫉妬って誰に?」
「慧に。その優しさが俺だけに向けばいいのにって思って、でもそんな慧も好きで。好きで好きで、好きで仕方ないから、慧の為に何かをしてあげたいって強く思う」
窓まで戻ったリカちゃんが、煙を逃がす為に開けていた隙間を閉ざす。また部屋は俺とリカちゃんの2人だけの密室になり、その小さな空間の中でリカちゃんは俺だけを見る。
「慧が庇おうとしたから、俺は鹿賀に手を貸し続けた。慧が優しくしたから、俺は鹿賀の意見を尊重して今まで黙っていた。それで鹿賀が立ち直れたなら、全て慧のおかげ。お前が鹿賀を見捨てていたら、その瞬間に俺もそうしただろうね」
ふぅ、と細い息を吐いたリカちゃんが一言付け足す。
「慧君以外になら笑って嘘をつく。平気で人を騙せる悪い大人なんだよ」
捨てられた吸い殻が鹿賀と重なって見えたのは、きっとリカちゃんが言った台詞のせいだ。
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