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『好き』という言葉には色んな意味があって、色んな相手に使えて、けど伝わる気持ちは1つしかない。
友達としての好きも、恋愛感情での好きも、家族に対しての好きも。自分は相手のことを好ましく思っている。それしかない。
でも、その2文字の短い言葉は言った俺と、受け取ったリカちゃんでは大きさが違う。
言わされたに近いはずのその言葉を、リカちゃんはすごく嬉しそうに大事にする。
きっとそれは、リカちゃんが俺を好きだからだ。俺が思っている何倍も好きで、何倍も嬉しくて、何倍も大切だからだろう。
そして、思い出す。鹿賀が現れてから……鹿賀と仲良くなってから、俺はリカちゃんにそのことを伝えただろうかって。言葉だけじゃなく、態度でも伝えたかって。
「俺、ちゃんとリカちゃんのこと好きだ。ちゃんとって言うか……うん、よくわかなんないけど」
自分でも突然何言ってるんだって思いながら言うと、リカちゃんは握ったままだった俺の手を離して、けれどすぐに追いかけてきた。
人差し指だけを握られると妙にそわそわする。だから俺からは包み返した。
俺の指を握りしめるリカちゃんと、それを手のひらで包む俺。離さないでほしいのは、本当はどっちだろう。
「鹿賀のこと、初めは大嫌いだったし邪魔だと思ったし、リカちゃんが鹿賀に本あげたのだって腹立ったし。でも慣れると普通に高校生で、悪いやつじゃないと思う。自分でもわかんないんだけど、リカちゃんが鹿賀に優しくしないとモヤモヤして、けど優しくすると苛々する」
それは矛盾していることはわかっている。けど、その理由がわからない。気持ちの変化は感じるのに、どうしてそう思うかわからない。
「なんでかわかんないんだけど……リカちゃんなら、この理由がわかる?」
自分自身でわからないことを、リカちゃんに訊ねた。
拓海や幸と話しても、全然掴めそうになかったこの感情の正体。それを訊ねる俺に、リカちゃんは視線を上げる。
「慧君は、鹿賀のことをどんなやつだと思う?明るいやつでも、生意気でもうるさいやつでも、何でもいい」
「……鹿賀は頭が良くて面倒くさくて、弱いくせに強がってて。でも優しいところもあって……あと」
「可哀想な子。慧君がそう言ってたって、歩から聞いた」
こくん、と軽く頷くとリカちゃんが身体をソファの背凭れに倒した。首が丁度いい具合に背凭れの角に当たり、緩く傾げた形になる。
「だからじゃないかな。慧君は鹿賀を可哀想だと思った。だから優しくしてあげたくて、でも自分より上は嫌で怒ったんだと思う」
「なんかそれ性格悪くない?同情して、でも自分を優先するなんて最低だろ」
「そうかな?俺はそうは思わないけど」
上半身だけを起こしたリカちゃんが俺を覗きこむ。
「人は自分より幸せな人間を可哀想だとは思わない。誰かを可哀想だと思った時、少なくともその相手よりは自分の方が幸せなんだよ。口にはしなくても、心がそれを感じてる」
「つまり?」
「慧君は、鹿賀よりも自分の方が幸せだと思ってる。それは鹿賀にとっては悔しい事かもしれないけど、俺からすると喜ばしい。少しでも慧君が幸せだと、俺はすごく嬉しい」
絶対に駄目だろうし、絶対に性格が悪い。それなのにリカちゃんが本当に嬉しそうに言うから、つい頷いてしまう。するとリカちゃんは急に顔の角度を変え、ぐっと顎を突き出した。
軽く触れた唇はすぐに離れる。
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