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大嫌いな大嫌いな、嫌で嫌で仕方ない説教が終われば甘い時間が返ってくる。
……なんて、そんな甘いことは当然ない。
あれだけ人の名前をわざとらしく連呼したくせに、リカちゃんはすっかり冷静に戻ってしまった。
こういう時、俺はリカちゃんがわからない。あの慧君慧君言っているバカなのが本物なのか、それとも目の前にいる落ち着いた姿が本物なのか。わからなくて困る。
「リカちゃんってさ、感情あんの?」
机に向かっていたリカちゃんが、俺の言葉に顔を上げる。その表情はすごく不思議そうで、しばらくこちらを見つめた後に首を傾げた。
「慧君、それどういう意味?」
「いや……なんか切り替えるの早いっていうか……ころころ変わるから、本当は感情ないんじゃないかと思って」
「さっきあれだけ伝えたのに?」
それもそうだ。あれだけ鬱陶しく名前を呼ばれて、もういいからって言いそうになるほど好きだと伝えられた。あれで無感情なら、むしろその演技力を褒めてやりたい。
ただ器用なだけなんだと結論づけて、ソファに寝転ぶ。今は1人で座っているそれは、家のよりも狭くて寝苦しい。
けれど、しばらくすれば徐々に眠気がやってくる。ここ数日の寝不足が俺を、夢の世界へ連れていこうとする。
「慧君、眠たいなら寝てていいよ。昼過ぎには起こすけど」
紙を捲る音に紛れて聞こえるリカちゃんの声。
「ん……な、んで?一緒に昼寝しよって」
「万が一誰かが来たら言い訳できないしね」
頭が重たくなってきて、けれど寂しくて手を伸ばす。ぼやける視界の向こうでリカちゃんが困ったように笑いながら、緩く首を振った。
「リカちゃん」
「駄目」
「リカちゃん、早く」
「だから駄目だって」
「リカちゃん、リカちゃん……リカちゃん」
これじゃあ、さっきと反対だ。今度は俺がリカちゃんを呼び続けて、一体何しているんだろうか。
「リカちゃん、早く。早く来いよ」
1人は嫌だと手を振る。するとリカちゃんは持っていたペンを起き、椅子を軋ませた。
「俺が断れないってわかっててするんだから、本当に困る」
困ると言いながらもリカちゃんの足取りは軽く、俺の頭元に立った。なけなしの腹筋を使って上半身を上げると、そこに滑りこんだリカちゃんがソファの背凭れに身体を預ける。
深く座り込むリカちゃんと、膝枕をしてもらっている俺。2人の間に会話はないけれど、どちらともなく手を繋いで目を閉じる。
「慧君」
名前を呼ばれて応えようとしたけれど、声が出ない。口も重たくて動かないし、目も開けられない。
けれど意識を集中させ、リカちゃんの手を強く握る。
「俺は慧君が好きだよ」
うん知ってる、それを伝える為にもう1度。
「本当、どうしようもないぐらい慧君だけが好きなんだよ」
俺もだって言いたくて、また握って。
「慧君は、慧は……──誰のことが好き?」
懐かしいその問いかけは、いつに聞かれた質問だろう。そう考えて、始めた鹿賀と打ち解けた日だったと思いだす。
あの時も虚ろな状況で聞かれて、答えられなかった。
きっと、俺が思うよりもずっと前からリカちゃんは不安を抱えていたはずだ。
眠たくて、夢の世界はすぐそこにあって、このまま落ちてしまいたいと思う。今さら過ぎる質問に、答える必要なんかあるのかって頭で考える。
それでも身体は素直に反応していた。残された力を振り絞って、ゆっくりと口が動く。
「俺、は……リカちゃんのことが…………好き」
今度こそ最後まで言えたことに安心して、もう無理だって意識を手放した。
やっぱり、リカちゃんの傍はよく眠れる。寝過ぎちゃうぐらいに眠れる。
最後に聞こえたのは『おやすみ』じゃなく『ありがとう』だった。
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