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ふと目を開けた時、傍にリカちゃんはいなかった。仕事に行ったその代わりに『慧ちゃん』と名付けられたウサギがいて、そいつはなぜかリカちゃんのスーツのジャケットを羽織らされていた。
俺の左手にはジャケットの裾、慧ちゃんが羽織っているリカちゃんのジャケットの……裾。
「なんでお前の方が多いんだよ。返せ」
ぬいぐるみから奪い取ってそれを抱きかかえる。不満そうな瞳と見つめ合って、返せと言われている気がして首を振る。
何も言い返してこない相手になら、俺だって楽勝だ。
昼過ぎに起こすと言いながら、しっかり寝かせてくれたリカちゃんはいつ帰ってくるんだろうか。いつの間にか用意されているジュースとパンは、きっと俺の昼飯なんだろうけど……。
おそらく鍵がかかっているであろう部屋。中には俺と、うさぎが1匹。
「あれ?もしかして俺……この部屋に監禁されてる?なあ、そうなの?俺閉じ込められてんの?」
拗ねたぬいぐるみは答えてくれない。ぬいぐるみだから当然でも、なんとなく気まずくて部屋の扉を見つめる。
口では監禁とか言いながらも、中からは開けられるのだから自由なんだけど。
けれど必要以上にここから出たいとは思わなかった。リカちゃんだけの部屋に長くいたくて、じっと耐えて。
その扉が開いたのは、それから1時間後のこと。置いてあったパンを完食して、緊張しながらトイレに行って、スマホでゲームをしていた時のことだ。
「慧君の寝顔が可愛すぎて起こせなかった。おはよう慧君」
満面の笑みでこんなことを言われると「監禁するつもりかバカ」なんて言えなくて渋々頷く。そうするとリカちゃんは後ろ手に持っていたお菓子をくれたから、言わなくても俺が不満だったことをわかったんだろう。
言わなきゃ伝わらないことがある、それでも言わない方がいいこともある。
それはなんとなく理解したし、もう鹿賀との一件はどうでもいいんだけど。
いいんだけど……だ。
「リカちゃん、俺も今日ここに泊っていいよな?」
言いたくないけど、今の俺はリカちゃんと1秒も離れたくない。それは言わなきゃ伝わらないことで、言った方がいいことなんだろう。
でも言いたくない。絶対に言いたくない。だから言わない。
たとえリカちゃんが口を開けて固まったとしても。
お前は何を言ってるんだって思われたとしても。
俺は、絶対に言わない。
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