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リカちゃんは仕事をして、俺はゲームをして。時々何か手伝うことはあるかと訊ねたら、甘ったるい声で「癒して」って言われて。それに返のは当然、無視。
そんな感じで時間は過ぎ、夕方と言うよりは夜になった。リカちゃんの買ってきてくれた夕飯を食べて、さて……この後どうしようか。
「慧君、そろそろ帰りなさい」
「やだ」
「送ってやるから。ちゃんとマンションの、なんなら部屋の前まで送ってやるから帰りなさい」
「やだったら、やだ。リカちゃんしつこい」
科目室でこんな言い合いをすること10分強。今日の仕事を全て終えたリカちゃんは、俺の前に立って腰に手を当てる。その仕草が怒っている母親のようで鼻で笑うと、リカちゃんの眉間に皺が寄った。
「慧君、ここに慧君がいるだけでも駄目なのに、泊まるなんて以ての外だろ」
「でも嫌だ。俺もここに泊まる」
「だから俺の話聞いてた?ここに泊まるって、どうやって寝るんだ?いくら学校にシャワーがあるって言っても、どのタイミングで入る気?」
そんなの、お前が入る時に一緒に済ませたらいいだけの話だろって言いたい。もちろん、その一緒には一緒に入るんじゃなく別々に入るんだけど。
リカちゃんがちょっと工夫すれば、俺がここに泊まっても問題はない。確かに眠る場所とかは大変だけど、誰も来ない科目室なら少しぐらいの無茶は平気だろう。
それなのに、リカちゃんは首を縦に振らない。
「慧君、このワガママは聞けない」
「リカちゃんの嘘つき」
「嘘じゃなくて常識だと思うけどね……って、何してんの?」
駄目だと言われるなら、実力行使に出るまでだ。俺は机に置いてあった飲みかけのコーヒーを手に取る。
俺がコーヒーを飲まないことを知っているリカちゃんは、少しだけ首を傾げてそれを見ていた。いつもは何でも知っている風の顔が、今は不思議そうで。
なんだか、すごく気分が良い。
ホットじゃなくアイスのそれを持つと、勢いよく自分にぶっかけてやった。
胸元からかけたコーヒーが服を汚し、中までしみ込んでくる。苦さの強い匂いと、肌に張り付く服の冷たい感触が気持ち悪いけれど、それを我慢して口の端をニッと上げる。
「ほら、これで帰れなくなった」
俺だって、やる時はやるんだと見せつけて笑ってやる。するとリカちゃんは少しだけ驚いて、けれどすぐに元に戻る。
「……替えの服ぐらいあるけど?どうせすぐ車に乗るんだから、俺のジャージでも構わないよな」
「だから絶対にやだってば!!俺もここに残る!」
「慧君、ワガママ言わない」
「ワガママな俺も好きだって言ったくせに!」
ここまでしても納得しないリカちゃんに怒る。すると、刻まれていた眉間の皺が消えて、はぁと深いため息をつかれた。
「何か帰りたくない理由があるのか?あるなら言って」
「……虫が。すっげぇ大きくて、すっげぇ強そうな虫が出て」
「慧君、それ嘘だよな。お前が家に3日帰って来てないことは俺も知ってるんだよ」
「…………チッ」
舌を打って、横を向く。そんな俺の無言の抵抗を見つめていたリカちゃんは、またため息を落とした。
「理由はあるけど言いたくない、いや……その顔は言うのが恥ずかしい?」
「わかってんなら聞くなよ変態」
「ほう。ここで俺に逆らったら強制送還もできるんだからな」
俺を見下ろして腕を組むリカちゃんが笑う。それは魔王が自分よりも遙かに弱い相手を痛めつける前の顔で、俺はこんな顔をゲームで何度も見てきた。
こういう時、魔王は簡単に相手を倒す。容赦なく倒して高笑いする。
「……わかった。そこまで言うなら、聞いてやらなくもない。ただ、1つだけ条件がある」
「条件?」
リカちゃんの告げる条件が何かと考えを巡らせ、何も浮かばなくて黒い瞳を見つめる。
伏せた睫毛で半分以上隠れたそれが、楽しそうに歪んだ。
「慧、今すぐ服を脱げ。それを聞けるなら、今夜ここに泊まることを許可してやる」
「──は?」
「聞こえなかったのか?今すぐこの場で、俺の目の前で服を脱げって言ってんだよ」
ニヤリと笑ったリカちゃんが指さすのは、茶色く染まった俺のTシャツだ。元が白い服は、きっともう使い物にならないだろう。だから捨てようと何しようと別にいいんだけど。
いいんだけど、だ。
「叶えてほしいことがあるなら、それなりの報酬をもらわないと。世の中はそんなに甘くないよ、慧君」
性格の悪さを隠しもせずに笑って言ったリカちゃん。俺の為なら何でもする誓いはどこに行ったのだろう。
きっと夏の暑さで溶けたんだと、そう思うしかない。思わなきゃやってられない。
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