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今度はリカちゃんのせいで力の入らない身体を支えてもらい、再びシャワーを浴びた。本日2度目のそれを、どうして他の教師は気づかないんだろう。いくら盛り上がってるとはいえ、ちょっと気を抜きすぎじゃないだろうか。
戻って来た科目室は、エアコンを点けっぱなしだから涼しい。暗い廊下も、教室でしてしまったあの事も忘れさせてくれるぐらいに快適だ。
けれど、その快適な部屋の中で忘れさせてくれない人物が1人いる。
機嫌良く鼻歌を歌い、残っていた仕事を片付けるそいつ。捲ったプリントの擦れる音すらBGMにして、リカちゃんは陽気だった。
「うっぜ」
こっちの気も知らず、次々に仕事をこなしていくリカちゃん。思わず文句を言うと、その目がこちらを向く。
「慧君、ご機嫌ななめ?」
「お前は機嫌良さそうだけどな」
「だって俺の夢が1つ叶ったし。そりゃあ鼻歌ぐらい歌っちゃうよね」
その夢が何かなんて聞かない。それよりも気になることは、その言い方だ。
「1つって何?リカちゃんでも夢とかあんの?」
「お前は俺のことを何だと思ってるんだ?俺にだって行きたい場所や、したい事ぐらいある」
すごく意外だった。いつも俺の意見を聞き、俺のしたい事を優先するリカちゃんにも、そんなものがあったんだと驚いた。
瞬きを繰り返す俺を見て、リカちゃんが笑う。
「俺は慧君が思ってるほど聖人君子じゃないよ。頭の中は欲望まみれだから」
「……性欲以外に?」
「もう1回やってやろうか?今度は支えられても立てないぐらい、抱きつぶすぞバカウサギ」
軽く睨まれて首を竦める。言い返さない俺が反省したと思ったのか、リカちゃんの意識はまたプリントへと戻った。
赤色のペンを握り、規則的に動かす手。その動きから、答え合わせをしていることがわかった。
「リカちゃんって、本当に先生なんだな……」
独り言のつもりが思ったより大きな声が出て、リカちゃんがまた顔を上げる。
「突かれ過ぎて記憶喪失にでもなった?これでも2年間、兎丸君の担任だったんだけど」
「記憶喪失になんてなってねぇ。確かに疲れたけど、お前がどれだけドSな担任だったかは覚えてる」
どれだけリカちゃんが強引で俺様だったか忘れるなんてできない。あんなに無理矢理な始まりを、俺は死ぬまで忘れない。
「疲れる……って、そっちの意味じゃなかったんだけど……まあ、いいか。ところで慧君はソファで眠れそう?」
科目室に1つだけあるソファ。3人掛けぐらいの大きさなら、仮眠ぐらいはできる。できるけど、だ。
「俺がここで寝たらリカちゃんはどうすんの?」
「逆に聞くけど、俺が学校で寝ると思う?こんな他人のいる場所で、いつ誰が来るかわからない状況で眠れるわけがない」
そんな状況でエッチしたのは誰だ。お前にとってはエッチしているところより、寝ているところを見られる方が嫌なのか。
リカちゃんのことをわかりたいと思うけど、こういうところは一生理解できないと思う。
用意してくれたタオルケットを身体に巻きつけ、ソファに横たわる。やっぱり少し窮屈だけど、疲れた身体はそれでも構わないと言っていた。
瞼がどんどん落ちてきて、頭がぼうっとしてくる。けど奥の方はまだ冴えていて、なかなか寝付けない。リカちゃんと仲直りしたはずなのに、胸がチクチクする。
その原因はわかっていた。
「リカちゃん、あの……さ」
鼻歌をやめたリカちゃんを呼ぶと、穏やかな声で「なに?」と返してくれる。
「歩、どうしてる?」
「今頃はバイトだろうな。終わったら桃の家にでも行くんじゃないか」
「……やっぱりまだ……怒ってる、よな?」
言われたことは気に入らない。俺だけが悪いみたいに怒られたことも、あんなに冷たくされたことも苛々するし、全部許したのかって聞かれたら嘘になる。
それでも、やっぱり。
「歩と仲直り、慧君はしたい?」
リカちゃんに訊ねられて、答える代わりにタオルケットを頭までかぶった。その隠れた中で小さく頷く。
俺は歩と仲直りしたい。リカちゃんもそうであるように、歩にもいなくなってほしくない。
否定すると嘘になるけど、素直に肯定はできない。だから隠れて頷いた。
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