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昼休憩が終わってすぐの講義は幸とは別だ。でも少人数で座席の決められたその時間はまだいい。問題はその後の、ラストの講義。
大講義室で行われるそれは、1年生だけじゃなく他の学年の生徒もやって来る。見知ったやつもいれば、初めて見るやつもいる。
誰が誰かわからない、外部が紛れていても気づかない、そんな時間。だからと言って、誰がいても目立たないなんてことはない。
いつも真ん中の席から埋まっていくように、今日も相変わらず前の方が空いていて。幸よりも俺の方が早く着いたから、空いている後ろの席に座ろうと思った。
1番後ろは遠すぎてプロジェクターの画面が見えないから、程よく後ろで。
そう思って空席を探す。その視線が1点で、1人で止まった。
後ろから3列目の窓際。部屋に入った俺を真っすぐに見るのは、黒い瞳。そいつの唇が動いた。
「慧君」
確かにそう言ったと思う。声は聞こえないけれど、確実にそう言った。
そいつの周りはなぜか誰も座っていなくて、けどみんな遠巻きに見ている。みんなの目が「誰だあいつ」って言っているのを感じる。
手招かれるままに歩みを進め、そこまで向かった。頭の中はパニックを起こしていたけれど、できるだけ冷静に。ここで叫ばなかった俺を、誰か褒めてほしいくらいだ。
「何……し、てんの?」
傍まで言って訊ねると、そいつは誰もいない隣の席を指さして笑った。
「ここ、空いてるよ」
「見りゃわかる……じゃなくて、ここで何してんの?」
「何って。大学ですることなんて、お勉強以外に何があんの?」
「じゃなくて!!!なんでお前がここに?!」
大きな声を出したことにより、俺まで見られてる。元々注目されていたのに、更に見られてる。
「誰だあいつ」と「知り合いなのか」の言葉に混じって微かに聞こえる「兎丸」の名前。それが聞こえた時、目の前のそいつの眉が寄った。
「やっぱり慧君は大学でも人気なんだな」
ムッとしながらも俺の鞄を掴んだそいつは、強引に隣に座るよう仕向けてきた。やめろと言う隙も与えられず引き寄せられ、瞬間に甘い匂いが鼻を掠める。
「ウサマル!遅れてごめんやで。ちゃんといい席確保してくれたか……って、なんで?!」
遅れてやって来た幸が見たもの。それは頬杖をついて不貞腐れる俺と、その隣でご機嫌に教本を捲るそいつ。
「なんで?なあ、なんでなん?!」
「幸うるさい。目立つから黙れ」
「いや、これが黙ってられるか!なんでこの人が……っ」
『この人』と幸が指さす先には、俺の教本に視線を落とし読みふける『そいつ』
天然のくるくる黒髪を後ろで纏め、変装用の黒縁眼鏡をかけた『そいつ』
今日はスーツじゃなくシンプルな私服姿で、でもそれすら完璧に着こなす『そいつ』
そんな『そいつ』が顔を上げ、自分を指さしている幸を見て鼻で笑った。
「おい赤髪。目上の人に向かって指を指すな。この礼儀知らずが」
幸に向ける声は少し冷たくて、口調は荒くて、そして偉そうだ。
「会いたいって言われたら来るに決まってるだろ、ねぇ慧君」
俺に向ける声は甘ったるくて、口調が柔らかくて、いつも通りだ。
「だからって大学まで来るアホがおるん?」
「アホって言うな。俺を貶していいのは慧君だけだ」
「しかも紛れてもバレへん時間狙ってまで?」
「慧君の時間割を把握しておくのなんて常識だろ」
驚いた後は呆れる幸と、意味のわからない常識を口にする『そいつ』
開いていたページのとある部分を指さし、そいつが俺に話しかける。
「慧君、ここの綴り間違ってるよ」
「……リカちゃん」
「ん?正解がわからない?ここはね」
「リカちゃん、なんで大学にいんの?どうやってこの講義室を見つけたんだ?」
正しい答えを書こうとシャーペンを掴んだリカちゃんが、それをくるくる回す。
「慧君が呼ぶならどこにだって迎えに行く。それこそ魔法を使ってでも、必ず」
よくわかんないことを堂々と言ったリカちゃんに、幸が「それは魔法の杖ちゃうとシャーペンや。しかも俺の」とツッコミを入れた。
リカちゃんがそのシャーペンを、即座に机の上に放り捨てたことは言うまでもない。
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