アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
221
-
「そりゃ知った当初は俺も悩んだで。自分の所為やと思ったし、本気で変わろうとして引っ越しまでしたし。親父に頭下げて、こっちの親戚の家に世話になって、今なんかホストのバイトまでしてる」
へらへらと笑った蜂屋は俺が飲んでいたコーヒーを奪った。断りもなくそれに口付け、断りもなく勢いよく喉の奥へと流し込む。
「色んな人見て色んな話聞いて変わった。自分が1番になる為には、人は平気で誰かを蹴落とす。それが相手をどれだけ傷つけるか知らんと、平然としよる」
「それがどうした」
「それがって……まあええわ。ウサマルには言ってない裏の話、教えたろか?」
俺の返答を待たないまま蜂屋はこちらに向かって上半身だけを寄せてくる。まるで秘密を共有するかのように、楽しい悪戯を話すかのように。
「俺ほんまは知っててん。あいつの彼女が俺のこと好きなんも、別れたがってたことも。それに、あいつが他の子と浮気してんのも。だってその浮気相手にも告られたから」
「それはまたドラマみたいな話だな」
「なんや、もっと驚いてほしかったのに。もっと驚いて、それでも何も言わずに身を退いた蜂屋くんイケメンって言ってほしかったのになぁ」
拗ねた素振りを見せる蜂屋は、カップをくるくると回して氷で遊び、時折楽し気に笑い声を零す。
「そんな泥沼な学校に通うより、世の中もっと面白いことで溢れてるからな。たかが1年留年しても、俺は別に何も思えへん。それを知らんと、ウサマルは同情してくれたみたいやけど」
カランと鳴る氷の音。それを追いかける蜂屋が笑う吐息の音。
下卑た笑みを口元に残したまま、まるでそうあるべきかのように振る舞う姿。それに声をかける。
「で、お前は俺にまで嘘ついて何がしたいの?」
「は?」
「そうやって下衆なやつのフリをして、慧を騙してバカにしたような言い方をして。そんな嘘をついて何がしたいのかって聞いてる」
わざとらしく弄んでいたコーヒーをその手から取り戻し、もちろん口は付けずにテーブルの端に置く。
「こんな物で気をそらさなきゃ、相手に嘘がつけない。わざと不快に思わせなきゃ見破られるかもしれない。そこまでして何を怖がってんの?」
「俺は別に怖がってなんかない。本当のことを言っただけや」
「それを聞かされた俺が、慧に蜂屋とはもう関わるなと言うと思った?それが原因で俺と慧が喧嘩して、また自分を頼ってくれるとでも思った?だとしたら考えが甘すぎる」
「…………成功すると思ったのに。ほんま、性格が悪いだけあって卑怯な作戦には目敏いわ」
テーブルに両肘をついた蜂屋は、それを崩して突っ伏す。交差させた腕の間に顔を埋めた。
「最初はほんまに後悔しててん。なんて事してもたんやろって思って……でも、そのうち俺が悪いんか?って考えだして……こんなん誰にも言われへんやん。無責任やって言われるんわかってて、本音なんか誰にも言えるわけない」
数度目にして初めて弱いところを見た気がする。
慧から聞いた蜂屋の話や、歩がたまに出す蜂屋の話題。そこから汲み取れたのは、どこか掴みどころがなくて、あまり自分の話をしたがらない様。
自分よりも他を優先するところが、俺と似ていると言われたこともあった。
「それを俺に言ってどうすんの?俺が聞いたところで何も解決しない」
蜂屋の唇が微かに震え、意を決したかのように結ぶ。
「誰かに話を聞いてほしくて。多分……あんたなら、わかってくれると思ったから」
今までなら「そんなこと知るか」と跳ね除けていただろう台詞。それがすぐに出てこなかったのは、きっと慧君のお人好しが移ったからだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1038 / 1234