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1ヵ月と数週間ぶりにリカちゃんと家で2人きり。誰かに邪魔されるかもしれない、誰かに聞かれるかもしれない。そんな心配なんてしなくてよくて、好きな時に好きなようにリカちゃんに触れることができる。
だから急がなくていい、焦らなくていい。それはわかっているのに、俺の身体は正直だった。
家に足を踏み入れた途端、目の前にいたリカちゃんの背中に抱きつく。玄関の扉が閉まるまで待てたのが奇跡だと思えるぐらい、必死に我慢していたものが溢れてくる。
「慧君?まだ靴脱いでないんだけど」
半分笑って言うリカちゃんだけど、その手は俺を離そうとしない。それどころか腰に回した手を握ってくれて、じっと立っていてくれる。
「けーい君」
「リカちゃん……もう誰も邪魔しない?部屋に入ったら知らないやつがいて、今度はそいつが泊まるとか言わない?」
「言わない。ここには俺と慧君しかいない」
「絶対?鹿賀が戻ってきたり、歩が居座ったりしない?」
玄関に靴がないんだから、誰もいないことなんてわかってる。それなのに確認してしまう俺の手を、リカちゃんがあやすように撫でる。
「もしそうなったら、俺が追い出すよ」
そう言ったリカちゃんが回した腕の中で身じろぐ。苦しいのかと力を緩めると、身体を反転させてこちらを向いた。
「慧君が嫌だって言ったら、誰が来ても入れない」
「……ん。わかった」
「まだ心配?」
リカちゃんは何が心配なんだって聞かない。きっと俺が自分でもわかっていないことを知っているから。
そして俺が素直に頷かないことも知っている。そうだって言いたいのに、首を振ってしまうことを知っている。
「別に」
やっぱり強がってしまう俺の左手をリカちゃんが握る。指を交互に絡めて、恋人繋ぎってやつ。
「今日はずっと手を繋いでおくっていうのは?それなら俺はどこにも行かない、慧君もどこにも行けない」
「それ、不便じゃないか?トイレとか、風呂とか」
「全部一緒でいい。今まで別々の時間が多かった分、今日ぐらいは全部一緒がいい」
握った手に力を入れたリカちゃんが上半身を屈めて覗きこんでくる。頷くか躊躇っていると、いたずらに笑って、その顔が近づいてくる。
数秒だけ触れるキス。軽く合わさっただけのそれの後、リカちゃんが俺の唇をゆっくりと舐めた。
「慧君、沈黙は肯定とみなすよ」
すげぇ勝手な言い分だと思う。考える時間もくれなくて、悩む隙も与えてくれないんだから。
でも同時に優しいとも思う。頷きたくても頷けない、そんな俺に1番簡単な方法を教えてくれるんだから。
「はい、時間切れ。今日はずっとこのまま」
沈黙を肯定としたリカちゃんがしゃがみ込み、俺の靴を脱がそうとする。スニーカーの紐を左手だけで解いて、ゆっくりと立ち上がる。
「おかえり慧君」
「……ただいま?」
「なんで疑問形?」
「だって、リカちゃんも今帰って来たところだし」
おかえりと言ったらいいのか、それとも、ただいまが正しいのか。悩んでいると、ぶわっと甘い匂いがして、何かが目の前を遮る。
それはリカちゃんの柔らかい黒髪。今目の前にあるのは、リカちゃんの大きな黒い目。長い長い前髪と睫毛が邪魔じゃないのかと思うけど、これだけ綺麗な目をしているのだから、少しは隠してもらわないと困る。
こうして近くでリカちゃんを見ると……近くじゃなくてもだけど……絶対に目を奪われる。
今の俺みたいに動けなくて、魅入ってしまうに違いない。
「お互いにおかえりを言って、お互いにただいまを言う。合計4回分の挨拶しなきゃ」
リカちゃんの挨拶には、言葉だけじゃなくて『それ』がセットで付く。もちろん俺にだけ限定で、だけど。
「リカちゃん、まだ靴脱いでない」
解けた靴紐が邪魔で動けない。それを良いことに俺に迫って来るリカちゃんは、間近にきた唇を綺麗な半円にして笑う。
「先に仕掛けてきたのは慧君だろ?」
「俺はここまでは言ってない。俺の所為にすんな変態」
「お前、本当に口の悪さは変わらないよな。それから身長も」
「てめぇが無駄に高いだけだろ!俺は平均はある!!」
怒鳴る俺と、近所迷惑だから叫ぶなと注意するリカちゃん。広いとは言えない廊下を男2人で並んで歩くのは窮屈で、リカちゃんの方が顔に当たって痛い。
「狭いんだよ!もっとそっち寄れよ変態教師」
「お前には変態しかレパートリーがないのか?ボキャブラリーが乏しいと、教師は務まらないと思うけど」
「うるせぇ。お前には変態が1番似合ってるから大丈夫だ」
「そういうのを論点のすり替え、詭弁って言うんだよ。英語なら……って、言っても慧君にはわからないか」
明らかに残念そうな、同情した顔をするリカちゃんを睨む。俺に睨まれてもリカちゃんは楽しそうに笑うから、余計に腹が立つ。それなのに、手は放さない。
俺の左手とリカちゃんの右手は繋がったままで、けど言い合いはしていて、でも手を放す気はない。
それは俺だけじゃなくリカちゃんも同じ。
繋がったままで過ごす時間を嬉しく思っているのも、きっと。きっと同じだろう。
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