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片手が使えないっていうのは意外と不便で、利き手が自由だったとしても動きが制限される。コップにジュースを入れるのすら大変だから、早くもこの手繋ぎ状態を後悔していた。
それでもやっぱりリカちゃんは器用だった。元々が両利きだからかもしれないけれど、いつもと変わらず生活できる。
さすがに料理をするのは無理だったらしく、出前をとることにはなったけれど。それ以外は本当に変わらない。
器用に左手だけでコーヒーを淹れ、器用に左手だけで煙草を吸う。その煙が俺にかからないよう気遣いつつ、でも手は放さない。
ずっと繋がったままのそれは、エアコンが効いて涼しいはずなのに熱い。リカちゃんから伝わってくる熱も、俺が伝える熱も、両方が合わさって熱い。
「慧君、夕飯はピザにする?」
いつも頼むところのサイトを見つつリカちゃんが訊ねてきて、俺はそれに頷く。何が食べたいか言わなくても、俺の好みを知っているリカちゃんは簡単に注文を済ましてしまった。
きっと届くのは俺の好きなものばっかりが乗った商品。リカちゃんの好物がそこにあるかは、関係ないに違いない。
注文したピザが届くまで30分ほど。日課のスマホゲームができないのは少し痛いけれど、今の俺はそれどころじゃない。
どんな時でも、何をしていても自然と出てくる欲求。男も女も、大人も子供も、誰もが持っているもの。
そう、トイレに行きたい。
行きたいなら行けよって、誰だって思うだろう。俺だって別にトイレに行ってくるなんて、わざわざ宣言したりしない。勝手に行って勝手に済ますことぐらいできる。
普段なら、できる。でも今はできない。
その理由は繋がったままの左手だ。
「リカちゃん」
ぼんやりとテレビの画面を眺めていたリカちゃんを呼ぶ。その黒い瞳が俺を映し、ゆっくりと解れた。
「なあに、慧君」
「あの……手、を」
こんなに機嫌がいいなら、トイレぐらい行かせてくれるかもしれない。トイレを済ませて手を荒うぐらいの時間なら、放したってカウントしないんじゃないか。
「トイレ行くから放して」
もう3年目となれば恥じらいなんてない。そもそも男同士でトイレ宣言をすることの、どこに恥ずかしさを感じる必要があるのだろう。
行きたいものは仕方ないし、行かなきゃ大変なことになるし。いくらリカちゃんがバカでも、ここでしろなんて言うわけがないと思った。
それは俺の想像通りだったんだけど、リカちゃんは俺の想像の斜め上をぶっ飛んで行く男だから。
だから。
「わかった、行こう」
言い終えたと同時に立ち上がるリカちゃんにつられ、俺も腰を上げる。そりゃあ手が繋がってるから当然だ。
「ちょっ、ちょっと待て!」
「え?」
「トイレに行くんだってば!俺はトイレに行く!」
「うん。だからトイレに行こうと……」
「違う!!俺は1人でトイレに行くんだよ!片手じゃ無理だから、手を放してくれって言ったんだ!!」
前を寛げてモノを取り出し、それを支えて用をたす……この一連の動作を右手だけでするのは不可能だ。それなのにリカちゃんは首を傾げ、疑問だらけの表情をした。
「片手?手なら2本あるよ?」
「どこに?!俺の左手は、お前の右手と繋がってるだろうが」
「慧君の右手と、俺の左手。ほら片手じゃないだろ?」
そう言ったリカちゃんが顔の横で振るのは左手。顔は女っぽくても手はしっかりと男で、やたらと指が長い左手。
教室ではチョークを握るその指を広げ、ひらひらと振る。
そして満面の笑みで、悔しいけど見惚れるぐらいの笑顔で言った。
「俺の全ては慧君のものだから。左手が使えないなら、俺の左手を使えばいい。だって、俺の全てが慧君のものだから」
白い歯をこれでもかと輝かせ、爽やかすぎる笑顔でクソ意味のわからないことを言ったリカちゃんに引きずられるようにしてトイレに向かう。我慢できない尿意が止まらなくて、でも解放なんてしてもらえなくて。
結果として、人の手を借りて用を足すのは本当に恥ずかしかった。死にたいと思えるぐらい、本当に本当に恥ずかしかった。
けれど、ついでだから自分も済ませると言ったリカちゃんの手助けをするのは、もっと恥ずかしかった。
トイレは1人で行くものだと思う。いつも、どうしてトイレの個室ってこんなに狭いのか不思議だったけど、トイレは1人で行くものだから狭いのだとわかった。
もちろん、片手だけじゃ洗えない手を2人で洗ったのは言う必要はない。
手を洗う前に、俺のモノを触ったリカちゃんが手のひらを見つめていたのは言いたくもない。
見なかったことにするべきだ。じゃなきゃ俺までおかしくなる。
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