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長い足で優雅に歩いてくるリカちゃんは、俺に向かって手を振る。綺麗な顔を綺麗に微笑ませ、俺だけを見て歩いて来るその様子に……。
「な?兄貴のやつ、お前しか見てないだろ。今あいつの頭の中には『可愛い慧君、ああ抱きたい。今すぐブチ犯して泣かせたい』しかないから」
こそっと耳打ちしてきた歩の言葉を、俺はリカちゃんに告げ口せずにいてやろうと思った。励ましてくれた礼の代わりに、だ。
「良かった。リモコンの代わりにスマホでも投げつけられていたら、どうしようかと思った」
冗談混じりに言ったリカちゃんが、後ろに立っている幸を振り返った。その手から小さな白い袋を受け取り、中を探って歩にあるものを差し出す。
それは歩がいつも吸っている煙草で、リカちゃんも吸っている煙草。3つの箱を大きな手で一纏めに持ち、ほらと口を開く。
「人を羽交い絞めにして脅した挙句、その詫びが煙草3箱ってケチ臭い」
文句を垂れつつ素直に受け取った歩が立ち上がる。そして俺を見た。
「俺は煙草吸ってくる。慧、くだらないこと考えてる時間があるなら、終わってない課題でもしてろよ」
「えっ……なんでそれを歩が知ってるんだ?」
実は出された課題の全てを俺は終えていなかった。鹿賀のことや自分のこと、リカちゃんのことで精一杯で、まだ半分ほどしか手をつけていない課題。歩どころかリカちゃんにも言っていないはずなのに、それをなぜか知っていた金髪が笑う。
その視線の先にいるのは、あからさまに俺から顔を背けている蜂屋幸で。
「そこの赤髪。お前は性格だけじゃなく、口も軽いんだな」
「いや、違うねんウサマル。歩が言わな殺すって脅すから……」
「歩がそんなこと言うわけないだろ。こいつは俺の課題が終わってるか終わってないか、全く気にならない」
まあな、と頷いた歩に幸が責めるような視線を向け、けれど俺に睨まれて愛想笑いをする。
どうせ会話の途中で何気なく口にしたのだろうけど、今それを言われるのは非常にまずい。
なぜなら、ここには歩と幸と俺と、もう1人いるからだ。
黙って俺たちのやりとりを見ていた『そいつ』が静かに手を上げた。てっきり頬でも抓られるのかと思いきや、その手は自身の顎に添えられ、細い人差し指が唇を撫でる。
赤い下唇の表面を何度か行き来した指が止まり、嫌な形に歪んだ。
「課題も終わっていないのに、随分楽しそうだねぇ……慧君」
落とされた声の低さに歩は足早に逃げていき、幸もついて行こうとするけれど。それより早く、幸愛用の鞄を引っ掴んだリカちゃんが、見下すように逃げ遅れた赤髪を睨みつける。
正確には微笑んでいたけれど、リカちゃんのこの笑い方は碌なことを考えていない。だから、睨まれたみたいなもんだ。
全く顔色を変えず、それでも異常なほど力の込められたリカちゃんの手。逃げられない幸が、へらへら笑いながら、なんとかリカちゃんを見上げて言う。
「俺、これから外されへん大事な用があるような……ない、ような」
「なにそれダジャレ?ちっとも笑えないんだけど」
「へ?ああ、用と掛けてるって?ちゃう、そういうつもりじゃなくて」
「別にお前の笑いのセンスに興味はないけど、お前には利用価値がある」
「わあ……価値があるって言われても、全く褒められてる気がせん。不思議やなぁ……ははっ」
力を抜いて諦めた幸をリカちゃんが引きずり、呆然とする俺に早く来いと促した。こんなに目立つ2人と並んで歩く勇気はなく、さりげなく距離をとろうとしたけれど。
伏せぎみの瞼から覗く、黒い瞳に射抜かれて無駄に終わる。
「慧君、帰ったらすることは?」
疲れたからお菓子を食べて、最近ハマってるゲームをして。新しく買った漫画も読みたいし、少し寝たいけど。
けど、俺が今答えるべきは、その中のどれでもない。
「……課題を終わらせる。お菓子も食べず昼寝もしないで、俺は課題と戦う」
「そう正解、慧君が物分かりの良い子で助かる」
物分かりは良くない方だと思うけど、俺の本能がこれ以上リカちゃんに刃向かっちゃ駄目だと訴えている。
こくんと頷いた俺は、悲愴な顔でついて来る幸を見ないようにしてリカちゃんの隣に並んだ。
向けられる視線が鬱陶しくて、これに慣れているリカちゃんはやっぱり変だと思いながら。
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