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リカちゃんの車を見て目を輝かせた幸は、俺たちの住んでいるマンションを見ても同じことを言い、その度にうるさいとリカちゃんに怒られ。
そして今、仏頂面で俺の前に座っている。手には俺がまだ手をつけていないレポート用の文献があって、その要約をさせられていた。
持ち主の俺じゃなく、リカちゃんにだ。
「なんで俺がこんなこと手伝わなあかんねん。あの車に乗れたんは嬉しいけど、それにしても割りが合わんやろ……」
ぶつぶつと文句を言いながら、それでも要点をまとめている幸をチラリと見る。
幸のテンションを上げるほど、リカちゃんが乗っている車は凄いのかと思いつつ、俺も必死にペンを走らせる中。肝心のリカちゃんはというと、さっきからキッチンに立ち、常に手を動かしながらも俺たちを監視していた。
「赤毛、手よりも口が動いてる。それ以上無駄口叩くなら、猿轡でもしてやろうか?」
「なんでやねん。ホストの顔に傷つけたら絶対あかん」
「傷なんてつけるか。優しく丁寧に、一切声が出ないようにしてやるよ」
目に見えてドン引きした幸が俺に訴えてくるのは『この男はどれだけ性格が悪いんだ』だろう。そんなの、俺が聞きたいぐらいだ。
「ほら赤毛、頑張ったらご褒美やるから」
何かを洗いつつ言ったリカちゃんに、幸は目を眇めた。
「ご褒美?あんたが俺の顧客さんなってくれるとか?」
「それは無理」
「あんな高い車乗ってるんやから、週2ぐらいなら遊び来れるやろ。それより、人のこと赤毛とか呼ぶんやめてくれへん?」
「俺にそんな無駄な時間は一切ない。あと、お前なんて赤毛で十分だ。なに?名前で呼んでほしいのか?」
幸をからかうリカちゃんの台詞に、思わず肩が跳ねる。
まさか下の名前を呼び捨てにするんじゃないだろうな、と視線だけを上げてリカちゃんを盗み見れば、不意に目が合った。
俺を見ていたリカちゃんが嫌な笑い方をする。
「残念だけど、うちのお姫様は嫉妬深いんだよ。名前呼びなんかしたら、俺が噛み殺される」
ねえ慧君。同意を求めるリカちゃんの声。
それが癇に障って舌をうてば、向かいに座っていた幸が呆れて見るのは俺だ。
「なんだよ、俺は何も言ってないだろ」
「ウサマル。目は口ほどに物を言うんやで。お前の今の目、嫉妬でメラメラ燃えてる」
「燃えてない!名前ぐらいで嫉妬するほど、俺は子供じゃない!!」
「って本人は言ってますけど。平気らしいで」
幸に話を振られたリカちゃんが流れる水を止め、幸を見て俺を見て。俺はそれを無視してやった。
勝手に決めつけられた、小さな反抗のつもりだ。
「お許しが出たなら、せっかくだし名前で呼ばせてもらおうかな。その方が慧君に協力してくれそうだし?なあ、幸」
ひくんと俺の喉が鳴った。リカちゃんが幸の名前を呼び捨てたことによって、意識せずに。
「それなら俺も呼び方考えなあかん。リカちゃんはウサマルとかぶるし、リカ……あきよし、あっくん……うん、今度からあっくんて呼ぼかな」
それに乗っかる幸が変な呼び方をして、また喉が鳴る。
「幸が呼びたいように呼べばいいんじゃない?慧君は、名前の呼び方ぐらい気にしないみたいだし」
「あっくんの彼氏が理解ある子で良かったわ。さすが、あっくんの選んだ子」
「それを言うなら、さすが幸の選んだ子」
「いやいや、あっくんが──……」
幸とか、あっくんとか。あっくんとか、幸とか。
繰り返される名前の往来に、何かがプツリと切れる。それは短い、短すぎる我慢の糸だ。
「うるさい!!幸呼びも、あっくん呼びも却下だ!理由は言いたくない!」
怒鳴り散らす俺を幸は肩を竦めて見て、リカちゃんは楽しそうに笑う。からかわれたのだと知ってはいても、嫌なものは嫌で歯を噛みしめた。
リカちゃんに少しだけ似ている幸と、幸の何倍も何十倍も性格の悪いリカちゃん。
そんな2人を相手するよりも、課題を進める方がよっぽど楽だ。
それがリカちゃんの計画だったのだろうけれど、気づけば思った以上に進んでいて、なんとかお仕置きは免れそうだった。
だからって、名前の呼び捨ては絶対に許さない。
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