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帰宅を急ぐサラリーマンやOLの姿が減り、夜が深くなると街の様子が変わる。派手な化粧で繕った顔が目立ち始め、派手な服を身に纏った集団が現れ始める頃。
「……リカ、遅い!!」
待ち合わせ時間よりも10分以上も前に着いたというのに、両手を腰に当て仁王立ちする友人に対し、緩やかに手を上げた。
「お疲れ桃、豊も急に悪いな」
俺が待ち合わせをしていたのは桃と豊だ。
「呼び出した張本人が最後だなんて、ありえないわ!」
「そう言うのは、待ち合わせに遅れてから言えよ。時間、わかってる?」
桃に見せつける腕時計は、普段つけている物とは違う。今日、この為にわざわざクローゼットの奥から出した物。
それは仕事使いにするには派手で、値段も可愛くない代物だった。そして、違うのは腕時計だけじゃなく、締めているネクタイもだ。
仕事では落ち着いた色を選ぶのだが、今日のそれは落ち着いているとは正反対の柄物で。俺のネクタイを見た桃が首を傾げる。
「リカにしては派手ね。ウサギちゃんの趣味?」
「なわけないだろ。さっき買ったばかりだって」
「わざわざ買ったの?いやね、お金遣いの荒い男は将来性ないわよ」
眉を顰める桃も、いつもの清潔感ある様子からは少しだけ変えてきていた。前を開けたジャケットの中には、ネクタイではなくスカーフ。一目見て高級品だとわかるそれを緩く巻き、カフスのボタンも、キラリと輝く宝石がついていた。
俺も桃も、普段がスーツだから多少は違っていても見慣れた感じはある。問題は、もう1人だ。
「豊のスーツ姿って久しぶりに見た気がする。同窓会以来だっけ?」
黙って俺たちを見守っていた豊が立ち上がる。190cm近い長身、広い肩幅の男が着るスーツは威厳たっぷりで。スラックスとシャツというラフな装いのくせに、エッジが効いていて悪くない。
だがしかし、問題が1点だけあって。
「豊らしい着こなしだとは思うけど、ボタンは開けておこうな。そんなに上までぴっちり閉めていたら、浮いて仕方ない」
第一ボタンまで律儀に留められているそれを指さし言うと、不服ながらも無骨な指が外していく。
1つ、2つ外し、躊躇って3つ目まで。大きく胸元を開けさせた豊は、背けた顔で溜息をついた。
「あらあ。普段がストイックな分、それなりに色気があるわよ、豊」
「……そんなもの俺に必要ない」
「リカにはできない芸当よね。リカは何をしてもいやらしいから」
その言いぐさは失礼すぎやしないかと思いつつ、ここで桃の機嫌を損ねてしまっては困る。なぜなら、これから行く先では桃の異常に高いコミュニケーション能力と『弁護士』という肩書が非常に役に立つからだ。
時刻は夜の10時を過ぎ、1人で留守番しているウサギは何をしているだろうか。心配半分、嫉妬半分でスマホを睨みつけているかもしれないし、ふて寝しようとベッドに入っているかもしれない。
それでも、帰りに賄賂代わりのお菓子を買って行けば、おそらく大丈夫だろう。
ウサギさんが寝る前に帰りたいけれど、果たしてそれが叶うのか……全ては桃と、豊次第だ。その為には多少の暴言には目を瞑り、笑顔で徹しようと思った──のだ、けれど。
「早く行くわよ、この方向音痴」
先陣を切って歩くオカマの後頭部を、思い切り殴りたいと思った。その気持ちは声に出ずとも、表情に出ていたらしい。俺の隣を歩く豊が、軽く首を振る。
「リカ、桃は待ち合わせの1時間以上前に来たらしい。ちなみに下見も済んでいると得意げにしていた」
「……どれだけ楽しみにしてんだよ。いくら顔の良い男が好きだからって、あいつには歩がいるだろ」
「それとこれは別なんだと。金にものを言わせて侍らせてやるって、拳握って息巻いてたからな」
「遊びに行くんじゃないんだけどな……桃が暴走したら、豊が止めてくれ」
小声で話す俺と豊に気づかず、桃は下見まで済ませた店へと向かう。
道の端に立つ黒スーツの男がかける怪しい誘いを躱し、未成年じゃないのかと疑うほど若い女の子に「また今度ね」と断り、そしてたどり着いた1件の店。
白を基調とした外観の入り口をくぐると広がる、激しい音楽と淀んだ空気。そして一斉にかけられる声。
「いらっしゃいま………せ?」
男3人でホストクラブに現れた俺たちを見て、戸惑うのは仕方ないだろう。俺が働いていてもそう思う。それなのに約1人だけ違った。
「サチくん指名で。ヘルプなんて要らないから、この店で1番高いお酒持って来なさい」
声高らかに宣言した桃に、豊が顔を押さえたのは予想通りだ。
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