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今の蜂屋が欲しいものは誰から見てもわかる『実績』
例えば自身の浅い経歴を補うような、上の者に抗える『力』が欲しい。けれどチャンスは簡単に回ってくるものではなく、それを指を銜えて待っている時間は少ない。
ただの大学生に、自分の力だけで道を切り拓くのは難しいだろう。それこそ、何か協力なコネでもなければ……幅広い交友関係と、生活水準の高い層との繋がり。そんなものを持っているのは、きっと限られている。
そうそう見つからないであろうその人物は、まさか自分がその目的で連れて来られたのだと気づかず、まだ首を傾げているけれど。
「考えてもみろよ。しがない教師である俺がここに通ったところで、お前が手にする利益なんて知れてるだろ。それなら蜂屋が捜すべきなのは、お前がホストを辞めるその時まで継続的に援助してくれて、あわよくば手を広げる足場になってくれる相手ってことになる」
「そんな金回り良さそうな太客が、俺まで回ってくるわけないやん。上から順番に接客入って、俺にくるまでには時間切れや」
何を当然のことを言っているんだと呆れる蜂屋を尻目に、何かを察知したらしい桃が口元を引き攣らせる。
「リカ……あんた、まさか……その為にあたしを呼んだわけ?たまにはお前の好きそうな場所に連れて行ってやるなんて言って、騙したのね?!」
「騙してないだろ。現にお前の好きそうな男が転がってるだろうが」
「ちょっと!人のことを外見重視のミーハーみたいに言わないで。あたしが好きなのは、男らしさと可愛さを兼ね備えた、歩ちゃんみたいな子なんだから」
「それは良かった。ここでお前が浮気でもしたら、俺が歩に殴られるところだった」
にっこり笑って返事する俺に、桃が盛大なため息をつく。まだわかっていない豊と蜂屋を置いて、俺と桃だけが話を続ける。
「言っておくけど、リカが思ってるような遊びはしないわよ。あたしは一途なオネェなんだからね」
「お前がそうだったとしても周りは違うだろ。桃の顧客に派手な奥様が多いことは知ってんだよ」
「確かに毛皮のコートなんて着ちゃう派手な人たちだけど、心はまだまだ乙女なのよ」
「だからその乙女をここに連れて来てやれって言ってんだよ。遊ぶ金と時間があって、疑似恋愛を楽しめる大人の乙女をな」
言い返すことを諦めた桃が俺を見つめ、黙ったまま視線を蜂屋へと移す。それは値踏みするようなものではなく、純粋に蜂屋を見て、再度ため息を零した。
「わかったわ。歩ちゃんの友達でもあるし、困ってるようだから協力はしてあげる。蜂屋くん」
「へ?ああ、えっと……はい」
桃に呼ばれた蜂屋が呆けていた意識を正して背筋を伸ばす。凝視する桃の鋭い視線に負けないよう、見つめ返す。
「今度から、あたしの顧客様を連れて来てあげる。懇意にしてる女社長さんは何人かいるし、遊び慣れてる彼女たちなら面倒な手間もなく接してくれると思うわ」
「女社長……なんか、強そうな感じやな」
「そりゃ強いわよ。自分の手で会社を興して今も第一線で戦ってる人たちだからね。だから一筋縄じゃいかないけど、その分気に入られたら強力な後ろ盾になってくれるでしょうね。自分の持てる伝手を使って、あなたを1番に押し上げようとしてくれると思う」
ゴクリ、と蜂屋の喉が鳴って場の空気が真剣味を増した。またとないチャンスが目の前に転がって来たのだから、その瞳が獰猛な色に変わるのは仕方ないだろう。
視界の端に噂の『先輩』が席を立つところが見えた。その隙を見計らい、すかさず俺も重たい腰を上げる。
「リカ?トイレならさっき別の男が……」
丁寧に教えてくれる豊に微笑み、立てた人差し指を唇に当てる。疑問の色を濃くする友人に背を向け歩き始めると、背後でオカマが蜂屋の出勤スケジュールと連絡先を訊ねる声が聞こえた。
俺はただ、上へと昇るための足場を用意しただけ。それを固めるか無駄にするかは、今後の蜂屋次第。俺は自分にできる中でほんの些細な手を貸しただけだ。
いくらなんでも桃に任せっきりは性に合わない。
目には目を歯には歯を。そちらが人のものを奪うなら、こちらも同様のそれを。
自分がされて嫌なことは、人にはしない。
それを教えるのもまた、教師の仕事。
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