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なんとか無事に夏休みを迎えた、最初の週末。直前の追い込みを思い出すだけで頭痛がしそうで、それを忘れるためにダラダラし続けた1週間。
昼前に起きてリカちゃんの用意した軽めの昼食を食べ、たまに拓海や歩と会って、でも大半は家に引きこもって。
それをリカちゃんは何も言わないけれど、自分の中では駄目だということはわかっていた。
夏休みなんて無いに等しかったリカちゃんに、甘えっぱなしの自覚はある。止められている料理は無理でも、洗濯とか掃除ぐらいはした方が良かったかなって思うこともある。
でも、いつもリカちゃんが全てしてしまうから。あまりにも綺麗すぎる家の、どこを掃除したらいいのかわからなくて、完全に駄目人間を突き進む俺の前で、今日もリカちゃんはせっせと動いている。
その内容が……まあ、理解不能だった。
「なあリカちゃん。引っ越しでもすんの?」
つい訊ねてしまったのは、リカちゃんが部屋中の小物を片付けだしたからだ。大きな家具は別として、細々としたものを次から次へと自分の仕事部屋に運んで行っていた。
広々としたリビングにはソファと観葉植物、それからテレビ。肌触りが良くて気に入っていたラグマットは、いつの間にか別の物に変えられていて、驚くことにカーテンも違った。
「いや、これは予防策だ」
「予防策?」
「ちょっと色々と事情があってね。さ、最後にこれをかけたら終了っと」
バサリと音を立て、ソファにシーツのようなものが被せられた。新しいソファカバーに触れてみると、ツルツルとしていて違和感が募る。
リカちゃんの趣味とは違うような……でも、部屋の色合いは落ち着いている。そもそも、リカちゃんは俺に何も相談なく模様替えなんてするタイプではない。
もしするとしたら、どんな部屋がいいか真っ先に聞いてくるはずだ。それに俺は「面倒くさい」って答えて、リカちゃん任せにして、けれど中々悪くない仕上がりになるんだと思う。
だから、すごく違和感がある。突然の行動、リカちゃんらしくない行動、そして含みを持たせた言い方。
その真相を俺が知ったのは、それから1時間もしない内だった。
突然に鳴るインターホンに何事かと驚けば、それはマンションのエントランスではなくて玄関の方だった。どうしてそっちに?と不思議に思っていると、リカちゃんが立ち上がる前に連打が始まる。
「…………あ?鬱陶しい」
今、明らかにリカちゃんじゃなくリカ様が降臨した気がする。玄関に向かうその背中が怒っているように見えて、俺は自分が原因じゃないとわかっていながらも隠れた。
ベランダの窓まで走り寄り、カーテンに包まる。顔だけ出してそろりと覗くと、開けっ放しの扉の向こうが僅かに見える。
そして聞こえる騒がしい声。
聞き慣れたものばかりのそれが、どんどん近づいて来て、廊下を踏む足音は1人2人のそれではない。
「ウサマル、おはようさーん!!……って、何してんのん?」
先頭で入ってきたのは、真っ赤な髪の蜂屋幸。セットも何もしていない素の状態で、けれど前髪を上げて首を傾げる。
「おい幸、お前先頭歩いてて止まんじゃねぇよ。こっちは重たくて死にそうだっての」
幸を押し退けて後ろから歩が続き、その両手に膨らんだ袋を提げていた。
「はいはい、進んで進んで。あ、歩ちゃん!!そっちの袋はキッチンに置いてね」
リビングに向かおうとしていた歩を制したのは、今日も爽やかな桃ちゃんで。
「豊さん!!早く来ないと桃ちゃんが先に乾杯しちゃうって!」
その桃ちゃんのすぐ隣から髪の毛だけ見えるそいつは、声からして拓海に間違いないだろう。
美馬さんを呼ぶってことは一緒にいるはずなのに、大きな身体が見えない。きっと玄関に脱ぎ散らされた靴を整え、迎えに行ったリカちゃんに苦笑いして挨拶しているんだと思う。
団体での登場に驚きカーテンの中から飛び出る。すると、俺を真っ先に見つけたのは歩だった。少しだけ機嫌の悪そうな顔でこちらを見た後、桃ちゃんに言われた通りキッチンへと消える。
「え?みんなして何してんの?」
最後にリカちゃんと美馬さんが戻ってきて、全員で7人。男ばかりが7人も揃いに揃って、最後尾に立つリカちゃんが軽くため息をついた。その後に浮かべるのは苦笑い。
それから、いつもの声で口を開く。
「慧君が退屈かと思って、みんなを招待してみた。」
リカちゃんの一言に『予防策』の意味を知る。
これから始まる大騒ぎに楽しみと不安が入り混じって、でもやっぱり楽しみが勝った。
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