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自分のことだけで精一杯だった高校時代。何も要らないと思っていた1年生の冬にリカちゃんとの距離が近づき、欲しいものができた。今まで欲しかったゲームや漫画や、お菓子なんか比べものにならないぐらいの存在だった。
初めての告白は完敗で。人でなしの最低最悪野郎だと罵って、嫌いになってやろうとして、でもなれなくて泣いた。
どれだけ泣いても涙は枯れないんだって知った。
そして奇跡的に実った初恋。初恋は叶わないっていうのは、多分嘘だ。叶わないんじゃなく、叶う前に諦めてしまうんだろう。
1人での時間が、いつからかリカちゃんと過ごす為の時間に変わった。1人で使っていた部屋が、リカちゃんと暮らす部屋に変わった。
リカちゃんと一緒にいる日々は、まだ3年目なのに今までのどんな時より思い出が多い。嫌な記憶と場所が、リカちゃんによって塗り替えられていく。
例えば、玄関。俺にとって玄関は、出て行く母さんを見送った場所だった。諦めることを覚えた場所だった。
それが今じゃ「おかえり」と「ただいま」を言う場所になった。
扉の向こうに消える背中を見ても、もう悲しくはならない。リカちゃんは必ず帰ってくるって、知ってるからだ。
俺を変えるのはいつもリカちゃんで、間違った俺を正解に導くのもいつもリカちゃんで。
リカちゃんは、駄目だと言う代わりに「好きにしてごらん」って笑う。
ほら失敗しただろって嘲笑う代わりに「失敗は間違いじゃない」って慰めてくれる。
答えのないものに悩み、頭を抱え、投げ出しそうになって、それでもたどり着いた先にはリカちゃんがいる。
『俺は何があっても慧君の味方だから』
確証のない口約束でも、疑わずに信じられる。リカちゃんは俺に嘘をつかない。
どんな時でも、どんなことがあっても、どれだけ自分が苦労したとしても。
『慧君のために生きる』
いつからか当然のように受け入れ始めた重たい言葉が、頭の中に響いた。
実際に言われた気がして、思わずリカちゃんを見る。すると──。
「慧君」
示し合わせたかのように、現実でも名前が呼ばれる。胸の奥の奥の、ずっと奥がじんわりと痛んだ。
苦しくもない。悲しくもない。
じわじわと広がるこの痛みは、くすぐったいようで温かい。
慧君、ウサギ、慧。
そう言えば、いつからリカちゃんは俺を「慧君」と呼ぶようになったのだろう。
思い出が多すぎて見つからない記憶をたどっていると、また声が聞こえる。
「け、い、く、ん」
落ち着いた声の中に甘さを滲ませ、それはこちらを見つめる瞳にも移っていく。わざと一言ずつ区切って、俺の視線を自分に向けさせようとする。
「リカちゃん、なに?」
少しだけ早口で答えると、リカちゃんが俺を手招きした。
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