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Last 《side:Rika》
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生涯で起きる『良いこと』と『悪いこと』
もしもその全てを数えることができたなら、悪いことの方が多いかもしれない。それは人によって差があれど、おそらく自分の人生では圧倒的に悪いことが多いだろう。
なんとなく周りに敬遠されがちだった学生時代。それが人より少し器用で、人より少し整った外見をしているからだと気づいたのは、早い時期のことだった。
別に望んでこんな性質なわけではないのに、生まれ持ったものは変えられない。自分じゃちっとも興味の持てない、ただの容れ物。
そんな見せかけに価値など見出せるはずもなく、はっきり言って『邪魔』でしかなかった。
周囲と違うところがあると人はそれを批判する。
羨む気持ちは妬みに直結するし、妬みは嫌悪に変わることだってある。慣れたくなくても嫌でも慣れてしまう。
何を言われても平気なのではなく、平気な演技をするだけだ。
深く関わらないようにすれば「冷たい」と言われ、適当に流せば「誰にでもいい顔をする」と非難され。
そんなジレンマに気づいてくれた友人を身代わりにして長らえた人生に、何の意味を持てばいいのかわからなかった。
何の為に生きていけば良いのか、見失っていた。
『リカちゃん』
初めてその名前を呼んだのは、兎丸星一。
どれだけ頑張っても星一の足元にも及ばないことを痛感し、自暴自棄になっては自分と周りを痛めつけ。それでも必死に生きてきた長い月日。
『リカちゃん』
次に呼ばれた相手は、その弟の兎丸慧。
この世で1番に責めてほしくて、同時に許されたいと願った相手。少しでも星一の代わりになれるように、と胸に刻んだ誓いを大きく崩してくれた相手。
誰かに必要とされたくて、何でもできる自分でありたくて、何でもできなきゃ捨てられそうで。
無駄に増えていく知識と特技に、何の感慨も抱かないのは、きっと本当は不必要だったからだと思う。
特別と思えない相手に求められても満たされないのは、今考えれば当然のことだった。
慧が求めることを求められる以上に応えたい。どんな無理難題でも、必ず叶えたい。嫌われたくない。置いて行かれたくない。1人になりたくない。
だからいつも必死で、少しでも立ち止まったら終わってしまいそうで。今の幸せを終わらせたくなくて、常に気を張っていた気がする。
若かったと言えばそれまでだけど、自分なら努力すれば何でもできると過信していたのかもしれない。
何でもしてあげたいけれど、全てを自分がしては駄目だということはわかっていた。こちらがどれだけ用意周到に待っていても、すぐに寄り道をしてしまう慧は、これからも自分の世界を広げていく。
俺の入りこめない世界で笑う君が憎い。
俺のいない場所でも輝いてしまう君が怖い。
今は自分でできないことも、俺と違って慧は周りを巻き込んで成し遂げてしまう。
無意識に人を寄せつけて、向けられた好意に応える。そんな慧だから元々ない自信が余計に削られて、何度も眠れない夜を過ごした。
みっともなく泣いたこともある。怒りに任せて手荒く抱いた日もある。
それを繕うように、甘く甘く囁いた醜い過去がある。
でも、どんな時も俺が不安を見せれば、慧はケロッとした顔で笑って言う。
『リカちゃんが頭おかしいのは、もう慣れてる』
慧君は今も気づいてないかもしれないけれど、それに慣れている慧君も十分におかしい。
おかしくて、愛おしい。愛おしいから、おかしくなる。
それでも。
何が普通で何が普通じゃないかなんて、本当は誰も知らない。こうして知らないことを2人で見つけて、2人の思い出にしていけばいい。時間はたっぷりある。
だって、俺は慧に生かされていて、慧の為に生きているのだから。俺の全てを握っているのは兎丸慧だから。
『愛してる』なんて使いまわされた言葉じゃなく、
『愛してほしい』なんてありきたりな願いじゃなく、
君に求めることは1つだけ。
どうか、明日も明後日も、1年後も10年後も。最期を迎えるその瞬間まで。
『君の為に生きたい』
君を喜ばせて、君の怒りを受けとめて。
『君に生かされていたい』
君の悲しみに寄り添って、君の楽しみを増やして。
残された時間を君と2人で──君の為に。
≪And they lived happily ever after. ≫
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