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俺だって何も努力しなかったわけじゃない。自分なりに精一杯頑張ったけれど、上には上がいただけのことだ。だから自分を卑下する必要なんてない。
きっと、思い描いた夢が実現する確率って、驚くほど低いんだと思う。だから今の俺の状況は特別珍しいことでもなく、残念だったねで済まされる程度の話だ。
学校で働いてなくても先生は先生だし。ちゃんと俺には俺の生徒がいて、勉強を教えてるし。
職業が『教師』なのか『塾講師』なのかの違いなだけだし、中身なんて殆ど変わらないし。
こうして冷静に考えてみると、俺は自分の夢を半分ぐらいは叶えたようにも思える。それでもどこか心が悲しくなる理由。
それは……。
『リカちゃんと同じ道を歩きたかった』
『リカちゃんの隣が似合う男になりたかった』
『自分が教えてもらったことを、誰かに伝えたかった』
『俺にも、それが出来ると思っていた』
獅子原先生が俺を変えてくれたように。
そんな気持ちがまだ残っているからだ。だから今の状況に納得できなくて、自分を説き伏せる為の言葉を並べても言い訳にしかならない。
『悔しい』けど『悲しい』わけじゃない。
だって、幸せなはずなんだ。少し予定と違うだけで。
幸せなはずに違いないんだ。少し寂しいだけで。
毎回こうして無理に心に蓋をして、無理に自分を納得させて、そうしてやっと前を向ける。踏み出した1歩がひどく重くても、笑えるぐらい小さな歩みでも、進まなきゃいけない。
そうしなきゃ、足元から崩れ落ちる。
けれど。
前向きになろうとすればするほど、誰かに教えてもらいたくなる。
俺は今、本当に幸せなのだろうかって。
俺たちは今、幸せな未来に向かって行っているのだろうかって。
数日後、数ヶ月後、数年後。リカちゃんの隣に俺は立っているのだろうかって。
──リカちゃんは今、俺のことをどう思っているのだろうか。
教える立場になったくせに、俺は今でもヒントを求めている。あの頭がおかしくて常識がなくて、思いもよらない行動を起こす男が教えてくれるのを待ってる。
待って待って待って、待ち続けても教えてくれない。
だって、俺はもうリカちゃんの生徒じゃない。学生でもなければ子供でもない。
──大人になんて、なるんじゃなかった。
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