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7.ふたり
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「…………ただいま」
案の定、終電ぎりぎりで家に帰ってきた俺は、一応は声をかけてから玄関を上がる。すると暗い廊下の先にぼんやりとした灯りが見えて、『あいつ』がまだ起きているのだと理解した身体が跳ねた。
相変わらず埃すら落ちていない廊下を通り、指紋の付いていないガラスの向こうに映る人影を見つめる。ソファに座って何かしているのか、ほとんど動かない頭。
地獄耳のリカちゃんなら俺が帰ってきたことに気づいているはずなのに、玄関まで迎えに来てくれないのが不満だ。例え廊下が数メートルしかなかったとしても、振り返るぐらいしてくれてもいいのに。
無言で開いたドアがガチャリと鳴って、閉ざされていた壁が開いて、やがて視界がクリアになる。今度はガラス越しではなく直接見えた後頭部が、ゆっくりと振り返っていく。
「おかえり、慧君」
「……おん」
俺の口から出た返事は、まともなものじゃなかったけれど。それでも気を悪くすることなく、緩く微笑む『そいつ』
その人物は、読んでいた本を静かに閉じ、自宅用の眼鏡を外す。その2つをテーブルに置いたリカちゃんが、再び視線を俺へと向けてきた。
「慧君。夕飯は?」
「向こうで済ませた」
「またコンビニで適当に、じゃないよな?」
「今日は適当じゃない。魚住のせいで、予想以上に食べ過ぎて苦しい」
本当ならお菓子だけにしておこうと思ったのに、あいつが弁当やらおにぎりやらを買ったから、俺まで付き合わされることになった。軽食どころかガッツリと詰め込まれた胃は、今もまだ膨らんでいる。
「リカちゃんは?何も食べてないのか?」
もう夕飯には遅すぎる時間だ。食べていないわけがないのに、そう確認してしまう自分の狡さに内心でため息をつく。
もしかしたら俺を待ってくれていて、一緒に食べようとしていたんじゃないかって。そう考えてしまったのだけれど……。
「仕事しながら軽く。夜は基本、あまり食べないから平気」
「そっか……うん、そう…だよな」
リカちゃんは何も変なことを言ってない。こんなことで傷つく俺がおかしい。それに、俺はもう満腹だし、食べる気なんてないんだし。
だから何も問題はない。
そうして言葉を飲み込み、間違っても出てこないよう水でも飲もうかとシンクに立つ。
側に置いてあるラックには、洗い終わった皿が伏せられていた。きちんと洗ってから眠るリカちゃんらしいな、と笑みが零れる。
けれどもその笑みは、一瞬にして凍りついてしまった。
視界の端に見慣れないピンク色の物体。
まるで弁当箱のような、どう見ても弁当箱にしか見えないそれ。俺とリカちゃんしか住んでいない家に、なぜかあるピンク色のそれ。
リカちゃんが好む黒やグレー、白とは正反対とも思える色。
「──リカちゃん。これ、なに?」
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