アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10.理解できない脳内
-
ふん、と鼻を鳴らして言い捨ててやると、リカちゃんはわざとらしいため息をついた。まるで、俺が負けてたまるかと意地になっていることなど、全部お見通しだと言わんばかりに。
その様が妙に苛々させるのは、嫌味なほどリカちゃんに似合っていたからかもしれない。名前も顔も知らない人妻に嫉妬したからかも……しれないことは、認めたくない。
とにかく頭の奥の方で燻っていた火が、勢いを増した感じだ。一気に燃え上がるんじゃなく、じわじわと。けれど、確かに範囲を広げていく。無理にでも止めなきゃいけない。
「とにかく。俺は疲れたから風呂入って寝る。リカちゃんはまだ起きてんの?」
俺が帰ってきた時に読んでいた本は、残り半分もない。国語の教師を目指しているくせに読書が嫌いな俺からすれば、それを今日中に読み終えるのは不可能だ。
けれど、相手はリカちゃんなわけで、リカちゃんに不可能なことなど数えるほどしかないわけで。
興味のあることには異常な熱意を見せるこいつなら、読んでから寝るという選択肢も考えられる。例え明日に予定があろうが、大事な会議が入っていようが、そんなものは関係ないに違いない。
だってリカちゃんは理性的なように見えて、本能で生きているからだ。
ちらりと見える背表紙は、どう考えても漫画本ではなく難しそうな本。いや、辞書かも。
とにかく、やたらと分厚いそれを視界に捉えつつ訊ねると、俺の視線を遮るように薄いグレーが目の前を横切った。黒い服を着たリカちゃんの腕だ。
人は見た目が良いと、どんな地味な服でもブランド物のように着こなせることを、こいつは日々、証明している。
……見た目は派手なくせに地味好きだなんて、ギャップ萌えかこの野郎。
「せっかく慧君も帰ってきたんだし、今日は俺も休もうかな。慧君がシャワー浴びてる間に、一服だけはするけどね」
音も立てずに煙草を取り出したリカちゃんの指が、唇へとそれを運ぶ。
たいして高価でもないシガレットケースは、俺が高校生の頃にプレゼントした物。
持ち主が良いと、何の変哲もない小物でも寿命は長くなるらしい。
「ほら、早く入っておいで。じゃないと、俺が煙草の吸い過ぎで早死にしちゃうよ?風呂上がりに出迎えられるのが、ヤニ臭い男の死体だなんて寝付き悪くなるでしょ」
吸い込んだ紫煙をふぅっと吐き出し、緩く笑う。言っていることは意味不明なのに、まるで映画のワンシーンみたいだった。
本当にこいつは、顔の良さに助けられてやがる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1103 / 1234