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13.オバケな恋人
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これでもかと時間をかけて戻ったリビングには、先ほどと変わらないリカちゃんの姿がある。俺がシャワーを浴びている間にローテーブルの上は片付けられ、灰皿にあるはずの吸い殻は綺麗に処分されていた。
実は何本の煙草を吸ったのかを見るのが楽しみだった俺は、内心それにガッカリしたけれど……。
今はそれどころじゃないことは確かだ。
「は?マッサージってなんで?」
「疲れてる慧君を癒したいから」
「いや、俺そこまで疲れてないし。ってか、マッサージが必要な年でもないし」
「こらこら。自分がまだ若いと過信し過ぎるのは、非常に良くないよ。本人が無自覚な内に、身体は悲鳴を上げているのかもしれないしね」
いつの間に用意したのか、リカちゃんが足元に置いてあったカゴをテーブルの上に乗せる。そこには見たこともないボトルが数本と、タオル。
取り出したそれらを綺麗に並べ、振り返った顔は満面の笑みだ。
「さあ、お客様。こちらにうつ伏せでお願いします」
はっきり言って胡散臭い。その繕った笑顔も、演技がかった演出も。リカちゃんの存在自体が胡散臭いのが、さらに怪しさを増している気がする。
だから俺は素直に受け入れることができなかった。身体は確かに疲れているのだけれど、こんなマッサージを受けるぐらいなら1秒でも多く休んだ方がマシだと思った。
そんな俺の考えを察知したのか、はたまた、こうなることを予測していたのか。
突っ立ったまま首を傾げる俺の腕を、強引に引き寄せる。もしこれが実際の店ならば、クレームをつけられても当然な荒々しい所作で。
そして、気づけば俺は有無を言わさずソファにうつ伏せにさせられていた。
「うわ……最悪の展開」
そう呟いた俺の声と。
「ああ……最高の眺め」
うっとりと零れたリカちゃんの声が重なる。
背中に感じるのは、人の気配。それも、変人で変態で、一般人の斜め遙か上を全力疾走で駆け抜けていく、頭のおかしな奴の気配だ。
「リカちゃん」
「大丈夫。慧君は身体の力を抜いて、余計なことは何も考えないでいるだけでいい。そうすれば、すぐに天国に連れて行ってあげる」
「俺、まだ死にたくないんだけど。明日は楽しみにしてた映画が放送されるし、来週には半年待ち続けた漫画の新刊が発売されるんだけど!」
「嫌だな……この俺が慧君を死なせるわけがないだろ。もしそんなことになったら、すぐさま追いかけて天国だろうが地獄だろうが、1秒たりとも離れずに傍にいるよ」
「うん。それ普通に怖いからな。お前、結構なキメ顔して言ってるけど、マジで怖いから」
「それにさ、考えてみなよ。現世でも死後の世界でも、こうして慧君とずっと一緒にいられるなんて、幸せ過ぎて死にそうだね……って、ああ。死後だからもう死んでるのか」
駄目だ。全く言葉が通用しない。本当にここは日本なのかってぐらい、会話が噛み合わない。
俺は、誰かこいつの言っていることを通訳してほしいと、切に願った。
どうやら俺のリカちゃんは、宇宙語まで喋れてしまうらしい。そんな特技、誰も望んでいないのに。
リカちゃんほど『宝の持ち腐れ』なやつは、なかなか存在しないだろう。泣きたいぐらいに残念だ。
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