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15.ゴゴゴでドドドな感じ
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「ちょ、待って。待て待て、リカちゃん落ち着け。いいから落ち着けって!ハウス!ハウス、ハウス!!」
美人が怒ると倍怖いってのは本当の話で、俺が生きてきた20年と少しの中で1番の美人は、その容姿に似合わず中身は恐怖の魔王だ。
いつ見ても完璧すぎるお顔。綺麗な二重の目は細まり、絶妙なバランスの鼻筋は今日も高い。何よりも目を引く薄い唇は、やんわりと弧を描く。なのに怖い。
まるでお手本のような笑顔のはずが、それに効果音をつけるなら『ゴゴゴ……』もしくは『ドーン』だろう。
小さな言葉の引き出しから無理に引っ張り出した単語を背後に、リカちゃんの微笑みを受ける。受けるなんて可愛いもんじゃない。容赦なく突き刺さってきやがる。
「リカちゃん。ちょっと…落ち着いて……ほしい、な」
ひくん、と鳴ってしまった俺の喉。仰け反って背後を見るという無理な姿勢を続けたせいで、首も肩も腰も痛い。
「落ち着け?それは心外だな。これでも学生の頃から落ち着いてるねって言われてきたんだけど、慧君には落ち着いていない様に見える?」
「そうじゃなくて、いつもの話じゃなくて!まさに今だよ、今!!今現在、どう見ても落ち着いてないだろ?!」
「慧君の気の所為だって。ほら、どう見てもいつもと何も変わらない。もしそれでも変だと思うのなら、慧君に何か心当たりがあるんじゃないの?」
常識で考えれば心当たりはないけど、リカちゃん視点で考えれば心当たりはある。
俺は全く。何も、ちっとも。これっぽっちも悪くないのに、こういうことに関しては心の器がミジンコよりも小さくなるお前が悪い。
そうはっきりと言えたなら、どれだけ楽だろう。
実際には言えないけど。言ったら最後、何がどう悪くて何が気に入らないのかを問いただされ、完膚なきまでに説き伏せられ、謝らされるのがオチだ。
この後の展開がわかっているのなら、素直にごめんと言えばいいのかもしれない。そうした方が丸く収まるのは経験上、知っている。
でも、できないのが俺で。しないのが俺で。そうしたいとも思わないのが俺なわけで。
俺は永遠にリカちゃんに刃向かって、無駄でも無意味でも、無謀でも主張していくつもりだから。だから、こう言う。
「ってかさ。リカちゃん、相変わらず器小さすぎ。たかがマッサージに行くぐらい、笑って送り出せよな……ほんと、いい年して恥ずかしくないのか?」
言いすぎたことに気づいたのは、それから数秒後。リカちゃんの逆鱗に触れたことに気づいたのは、その数秒後。
うつ伏せだった身体が強引に反転させられ、見上げた天井への道。それを塞ぐ、黒い影。
ゆらりと微笑む、黒い黒い黒すぎる影。
「やっばぁ……これは…うん。久しぶりのお仕置き案件、だね。慧君」
予測不能なスイッチを押し、逆鱗に触れた俺に待つ未来は絶望しかない。
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