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27.会いたい
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「はあ……なんだか今日は、いつもの10倍は疲れた気がする!らしくもなく頑張って働き過ぎたな」
自分のデスクに座り、見せつけるようなため息の後に魚住がそう愚痴った。
それは俺の台詞だって言い返そうとして、ここがまだ塾の職員室の中で、しかも周りでは他の講師が講義後の事務仕事に追われていることを思い出す。
昼間、なんとか女子高生をなだめた俺たち。もちろん交渉したのは俺ではなく魚住だ。言葉巧みに彼女を言いくるめる胡散臭い同僚を、俺は黙って眺めていただけだった。
それでも、予想していなかったトラブルが起きたことで身体だけでなく頭も疲れている。早く帰りたいと心から思うのに、机の片隅に積まれた報告書とその他諸々のファイルがそれを許してくれない。
「とーまるん。どうせ今日も残業だろ?いつもの買い出し行ってきてよ」
「うるさいバカ魚。勝手に残業って決めつけるな。それに残業するとしても、お前のパシリをするつもりはない」
「それだけ仕事積んでてよく言うよ。俺、お前が残業せずに帰ってるのを見たのって、初めの2週間ぐらいかも」
「……本当にうるさい。どうせ俺は仕事ができねぇよ。それがわかってるなら邪魔すんな、このロリコン野郎が」
上手く言い返せない悔しさを余計な単語を付けることで紛らわす。すると魚住は少しだけ眉を顰め、でも何も言ってこなかった。
俺だって、魚住を本当にロリコンだとは思っていない。
なせなら俺たちはまだ22歳だし、高校生相手に恋愛をしても特別な違和感はないだろう。たとえそれが、法律上ではアウトだとしても、だ。
だからって生徒に手を出すのはどうか。自分の時のことを棚に上げて考えれば、絶対に良くない。決して許されない。
それを魚住はきちんとわかっている。俺と違って、越えてはいけないその線をしっかりと知っている。
だから最後までは至っていない。
でも完全にセーフとも言えない。魚住と彼女がどこまでの関係かは知らないけれど、告白されるぐらいだ。多少の特別扱いはあったのは明白だろう。
「……つまりは自業自得じゃねぇかよ」
この状況を作ったのは魚住自身だから、魚住がどうにかするしかない。
当の本人は平然とした顔で仕事をしているけれど、その心の内は誰にもわからないことだ。
実は焦っているのかもしれないし、本当に何も考えていないのかもしれないし、どうにかなると楽観視してるのかもしれないし。
でも、どれであっても俺には関係のないこと。
他人の恋愛観に口出しする趣味はない。余計な世話を焼くのが好きでもなければ、他人を心配してやれるほど優しい性格でもない。
「ってか、それどころじゃないし。これ、本当に今日中に終わるのかよ」
人よりも仕事が遅い俺は、人の倍ほどの時間がかかる。
1人、また1人と仕事を終えて帰っていく中、気づけば部屋に魚住の姿はなかった。
「あの薄情者……っ」
自分だって無関係を貫こうとしているくせに、俺は身勝手だ。そのことがさらに仕事の効率を下げ、今日は無理だと見切りをつけてパソコンの電源を切る。
まだ残っていた塾長にあいさつをして外に出れば、昼の暑さを引きずった生ぬるい風が吹き、かなり気持ちが悪い。
気持ちは悪い……んだけれど。
「え──なんで?」
思わず固まって動けない俺に対し、静かに手を振る男が1人。
「お疲れ様、慧君」
誰よりも会いたくて、会いたくて仕方がなくて、誰よりも一緒にいて、家に帰れば会えるはずで。
それでもやっぱり、やっぱりどうしても会いたくなってしまうやつ。
「慧君に呼ばれた気がしたんだけど……その顔を見るに、どうやら俺の気の所為じゃなかったみたいだね」
リカちゃんが目の前に立っていた。
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