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28.Go to Heaven
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「リカちゃん?」
見た目はリカちゃん、声もリカちゃん。言われた言葉も、全てがリカちゃんなのに俺はまだ信じられずにいた。いや、信じたくて確認したのかもしれない。
会いたいと思った瞬間に会いたい人が目の前にいる。
口に出してもいないし、態度にも出ていない。寝落ちた昨夜から話もしていないのに伝わった気持ち。
それを汲み取ってくれた男が頷く。
「今日は職員室会議がやたらと長引いてね。間に合うかと思って見に来たら、まだ電気がついてるようだったから待ってた」
心も身体も疲れ果てていたはずなのに、それは一瞬で消え去った。それどころか、ここが天国のように感じてしまう。
仕事を残してきた塾の前で。生ぬるい空気に包まれている中で。
俺は、俺だけの天国にいるみたいだ。
「え、マジでリカちゃん?あのリカちゃん?」
再度訊ねた俺に、目の前に立つ長身の男が首を傾げた。楽しそうに笑う口元は、やっぱり俺の知っている声を発する。
「もしかして少し見なかっただけで俺の顔を忘れちゃった?それは悲しいな。俺はどんな事があっても、慧君の顔も声も、匂いでさえ忘れられないのに」
「いや……忘れてはないけど。だって、迎えに来てるなんて連絡……俺、ずっとスマホ放置してたし」
咄嗟に見たスマホには何の連絡もない。
俺の仕事を邪魔しないように気遣ったのか、リカちゃんは黙って待ち続けるつもりだったらしい。
「お前、もし俺が先に帰ってたらどうしてたんだよ。待ち損になるだけじゃねぇかよ、バカか」
その気遣いに実は心を打たれつつ、お決まりの皮肉を言うと、リカちゃんはまた緩く笑う。その笑顔のまま続いた言葉は。
『慧君のことを待つ時間なら、どれだけ長くても無駄だとは思わない』
昼間の暑さよりも俺を熱くさせた。
それから少しだか遅れて、呆れさせた。
「リカちゃん……お前がいると夏なのに寒く感じる。俺が風邪ひいたら責任とれよ」
「俺が慧君を涼しく出来るなら、24時間一緒に過ごすべきだね。そうすればエアコン要らずで地球にも優しく、俺も慧君も幸せ……うん、我ながら名案だ」
「いつまでもバカみたいなこと言ってろよ。俺は帰る」
「慧君に関してバカになるのは仕方ない。人は恋をするとバカになるって昔から言うし」
ああ言えばこう言うけれど、それが嬉しい。くだらないことを言って、本気とは思えないはずなのにリカちゃんの目は優しい。
俺だけに向けられる、俺だけのもの。
それが嬉しい。そうじゃなきゃ許さない。
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