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30.お勉強×ドライブ
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「ところで慧君」
先に話を切り出したのはリカちゃんの方だった。
時間も時間だし今日は外で夕飯を済まし、少しだけ遠回りした帰り道。久しぶり過ぎるドライブデートの途中で、その唇を開く。
「さっきから何度か見かける、その浮かない表情の原因は何だろうね?」
運転席から向けられる視線が痛くて、逃げるように顔を背けた。けれど言い逃れはできなくて、そもそも逃げる必要もないことを思い出す。
だって、俺は何も悪いことなんてしていないからだ。
「何か嫌な事か、悲しい事でもあった?慧君を苛めるやつは、俺以外許さない主義なんだけど」
「お前でも許されねぇよ。それに…別に嫌なことでも悲しいことでもないし。大したことでもないんだけど」
「たとえそうだとしても、話せば楽になるかもしれないよ。慧君にその気があれば、だけどね」
リカちゃんは基本、強要はしない。強引なところはあるし性格はドSだけれど、踏み込んでいい場合と駄目な場合の区別はつける。
リカちゃんは大人だ。俺よりも、魚住よりもずっと大人で、そして冷静で経験値が高い。そんなリカちゃんなら、どうするだろうか。
自分の生徒に告白されたら。そして、付きまとわれたら。どう対処するのか単純に興味を持った俺は、今日起きたことをゆっくりと説明した。
魚住が告白されたこと。それを断ったこと。彼女が諦めていないこと。
それなのに魚住は全然気にしていないっぽいこと、俺は魚住が気を持たせる態度をとったのが悪いと思ったこと。
「……ってわけだから、別に俺は関係ないんだけど」
全てを話し終えるまでリカちゃんは何も口を挟んでこなかった。時々、軽く頷きはするものの、静かに聞いてくれた。
そして俺の話が終わったところで、やっとひと言。
「長年教師をしていたら、そういう場面に遭遇するのは珍しくないよ。それを嬉しいと喜ぶのかどうかは、個人の問題だろうけどね」
そう言ったリカちゃんの横顔はとても冷たく見えて、久しぶりに感情が出ていないことに気づく。
「建前で言えば、慕ってくれるのはありがたいけれど、生徒は恋愛対象には見れない。でも……本音はどうなんだろうな」
リカちゃんはふうっと息を吐き、目元にかかる前髪をかき上げる。現れた眉は平常通りに綺麗な形だった。
「リカちゃんならどう思って、どうする?」
「どうだろうね。生徒から告白って、俺の場合は男子校だから」
「お前なら男も女も関係なく告られてんだろ。それを知ってる俺に、そんな言い訳が通用すると思うなよ」
「……慧君は手厳しいな」
苦笑いを浮かべたリカちゃんは、あまりこういった話をしたくないのかもしれない。告白に応じたことはないと思うけれど、俺と付き合う前のことはよくわからないからだ。
別に過去のことは俺とは関係ないし、責めるつもりはない……多分……そりゃ多少は面白くないけれど。
きっとそれをリカちゃんはわかっていて、答えを探しているのだろう。
俺が不機嫌にならず、けれど受け入れるであろう答えを。納得させるとまではいかなくても、黙るしかない答えを。
ずるい大人の答え方をリカちゃんは探している。
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