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35.見た目は可憐な蛇女
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「慧君」
言葉なく人妻を見ていた俺を引き寄せたもの。それはリカちゃんだった。
蛇光さん、俺、リカちゃんの3人で立っている状況は、まるで俺とリカちゃんが蛇光さんを取り合っているように見える。けれど実際に取り合っているのは、俺の隣に立つリカちゃんだ。
派手ではないのに華やかな蛇光さんの目元。長く伸びたまつ毛はくるんと上向きで、鼻も唇も小さい。小さいくせに薄いピンクの口元は、常に微笑んでいる。
ずっと笑顔で、でも目は怖い。
断言できる。俺の女嫌いの本能が、蛇光さんは外見は小動物だけれど中身は違う。その名前の通り蛇みたいに鋭くて、常に獲物を狙っている。
そして、今の獲物がリカちゃんだ。外見だけは圧倒的に良くて、立ち振る舞いも好感がもてて、何より対応が優しい。
言葉も仕草も顔も。何もかもが人好かれするこいつを、蛇女が見逃すわけがない。
……と、そんなことを考えていたからか、リカちゃんに呼ばれても反応が遅れた。その隙に蛇光さんはリカちゃんに身体を向け、そっと手を伸ばす。
「慧君ってお名前なんですね。さすが獅子原さんの親戚、慧君も女の子に人気そうです」
リカちゃんに触れる人妻の手。
「でも、親戚なら慧君も獅子原なんですか?だとしたら区別しづらいし、呼び方を変えなくちゃですね」
リカちゃんを映す人妻の瞳。
「そう言えば獅子原さんのお名前、まだ教えてもらってないです。名前、知りたいな」
リカちゃんのことを聞き出そうとする唇。ピンクに染められた唇。
──俺の、嫌いな色。
「リカちゃん!」
リカちゃんが蛇んに何かを答えるより前に、俺は2人を引き離した。少し強引だったからか、よろけた蛇光はんが壁に手をついたのが見えたけれど、そんなの気にしていられない。
早く引き離さなきゃ。早く、早く。この女からリカちゃんを引き離さなきゃ、余計なことを口走ってしまう。
俺のものに触れるな。俺のものに話しかけるな。
俺のものを見るな……消えろ。今すぐ目の前から消えろ。
今すぐ言ってしまいそうで、息が苦しい。
「慧く──」
「俺、見たいテレビあったの忘れてた。もう始まってるから早く帰ろう」
「え、ああ。わかったから落ち着いて」
理由がテレビだなんて子供っぽい。でも他に思いつかなくて口早にそう言うと、リカちゃんは素直に従ってくれた。
蛇光さんに軽く会釈をしたリカちゃんを急かし、慌ただしくエレベーターに乗り込む。
無理に引き離したのに嫌な顔せず見送ってくれた蛇光さんを振り返ると、俺たちの背後で可憐な唇がゆっくり開いた。
──リ、カ、ちゃ、ん。
確かにそう言った彼女は、俺の視線に気づいて小さく手を振る。
優しい笑みを浮かべる口元に、俺は、ある感情を覚えた。それは恐怖。
可愛いピンク色が似合う彼女が怖かった。
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