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38.わがまま
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苦手なキスを続けながら、リカちゃんはどうしてこんなにも意地悪なのかを考える。けれど、ちっとも上手く頭が働かない。
その理由は、少しでも答えに近づいたら、すぐに引き戻されるからだ。絡まった舌が俺の思考を止め、与えられる唾液が全てを振り出しに戻す。そうなれば俺はもう、リカちゃんの思い通りに反応してしまう。
「リ……んんっ、ふあ」
くちゅりと鳴ったのが俺の唾液なのか、それともリカちゃんの方なのか。もしかしたら両方かもしれないし、どちらのものでもないかもしれない。
いや、それはないか。
だって、この部屋には俺とリカちゃんしかいないから。聞こえる声も息の音も、全て俺とリカちゃんだけのものだからだ。
部屋から外に出れば他人の目があるのとは違い、この中にいればリカちゃんは俺だけにしか見えない。
いつも独占欲の強さをからかってるのは自分のくせに、今の俺はリカちゃんが他人を見ることではなく、他人がリカちゃんを見ることを怖がっている。
本当に情けなくて、カッコ悪い自分が嫌になる。
「慧君。もっと集中して」
すっかり考え込んでいた俺にそう言うと、リカちゃんは咎めるかのようにキスを深めた。息継ぎをするのでさえ許してくれないのか、どんどん呼吸が荒くなっていく。それと同時に身体も熱くなる。
「リカちゃん……リカ、ちゃん」
息をするよりも名前を呼びたい。求めるよりも求められたい。俺が想う気持ちの何倍も、何十倍も何百倍もリカちゃんには想ってもらいたい。
それをわがままだと言われたとしても、誰にだって言い返せるぐらい強い気持ちだ。正しいか間違ってるかは関係なくて、俺がそう思うんだからそれで良いんだ。
「……っは、リカちゃん」
ずるい俺の考えに、鋭いリカちゃんは気づいてるんだろうか。
リカちゃんは俺が簡単には満足しないやつで、わがままだなんて何年も前から知ってる。でも、ここまで自分勝手だとは思ってないかもしれない。
知られたくない。知られたくないけどわかってほしい。
「慧君。何か難しいこと考えてる顔してるね」
そんな汚いことを考えていた俺に、唇を離したリカちゃんが笑う。
その言葉の裏に『心配しなくて大丈夫だよ』って意味が隠されている気がして、身体のどこかがひどく痛んだ。
「別にそんな顔なんかしてないけど」
「俺を誰だと思ってんの。慧君のことなら、慧君よりも知ってるのに」
「誰って、リカちゃんはリカちゃんだろ」
「まあそうなんだけど。それよりも、名前。もう1回呼んでみて」
「名前って……リカちゃん?」
言われるがまま名前を呼んだ俺に、リカちゃんの笑顔はさらに深くなった。
「慧君に名前を呼ばれると、ただの名前ですらすごく綺麗な言葉に聞こえるから不思議だ」
いつも通りの呼び方でさえ、リカちゃんは綺麗だって喜ぶ。嘘じゃなく本当に喜んでくれる。
こうして、自分のわがままを全て叶えてくれる人なんて、どこを探してもきっといない。だから俺は、もっとリカちゃんを大切にしなきゃ駄目なんだろう……けど。
「自分の名前を綺麗だとか言うなんて、お前バカじゃねぇの。どれだけ自分のこと好きなんだよ」
今日も俺の口は、心とは反対を向く。大切にしたいと思っているのに、傷つけてしまう悪い癖が治らない。
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