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50.幸せを運ぶアイツ
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やる気のなさを隠さずに立っている歩の髪が揺れる。日本にいた頃と同じ髪型だと思ったのも瞬間で、あるものが見えて少し驚いた。
数ヶ月前にはなかったはずのもの。見慣れないものが歩の耳元でキラリと光る。
「歩。お前ってピアスなんて開けてたっけ?」
「あ?あー……これは向こうで開けた。っつーか、勝手に開けられた」
「勝手に?勝手に人の耳に穴なんて開けるやついるか?」
「実際にいたからこうなったんだろ。眠たすぎて死にそうって言ったら、痛いことすれば眠たくても寝るどころじゃないだろうって」
もし歩の言った通りの話なら、なんて常識のないやつだろう。だって人の耳に穴を開けるなんて普通じゃない。
でも歩が嘘をつくとも思えないし、つく必要もないわけで。そうなれば歩の言ったことは本当のことだ。
「お前の友達すごいな。なあ、それって本当に友達であってるよな?実は苛められてるとかじゃないよな?」
「お前には俺が苛められるタイプに見えるのか?」
「見えないけど。でもほら、言葉の壁とかあったら……って、歩って英語話せんの?」
歩が頑張って勉強していたことも、留学前にリカちゃんに教わっていたことも知っている。でも、あの歩がペラペラに話せるだなんて信じられなかった。
なぜなら歩は、俺や拓海と同じ赤点組だったからだ。やればできるタイプなのに、いつもバイトを優先して、勉強なんてしていなかったからだ。
けれど、そんな記憶の中の歩はもういない。目の前にいるのは留学をし、誰よりも努力して自分の夢に向かっている男だ。
「話せなきゃ向こうで生活できねぇだろ……慧、お前は相変わらずバカだな」
「だって歩が英語話してるとこなんて見たことないし」
「なんで日本人相手に英語で話すんだよ。そもそも、お前は全く話せないだろうが」
それもそうだけれど。だとしても、ちょっと他に言葉があったと思う。それから、久しぶりに再会する友人に対して、あまりにも冷たすぎるとも思う。
「歩、お前さ。いくらなんでも、もう少し優しく」
「やっと見つけた!!歩、お前は人のこと足に使っといて、勝手に置いて行くなんて何様のつもりやねん!」
俺の言葉を遮って聞こえた関西弁。人通りのまばらな中で、やけに響いたそれに視線を向ければ……。
「うさまる、うわー……めっちゃ久しぶりやん!!確か1ヶ月……いや2ヶ月?ちゃうか、もう3ヶ月ぶりくらいか?やっばいな!」
「幸…………お前、相変わらずうるさい」
「ええ?!会って初っ端から塩対応?!お前も歩も、ほんまワガママなとこ変わらんな」
もう髪は赤じゃないけれど、それでもやっぱりイケメンな蜂屋幸が笑う。
たとえ歩の物だと思われる、やたらと膨らんだボストンバッグを持たされていても。これまた歩の物だと思われる飲みかけのペットボトルを持たされていても。
高い身長は人の視線を集めるし、垂れ目だけど優しそうな顔は人の視線を集めるし、キラッキラな笑顔も人の視線を集める。こいつがパシリだなんて、この場にいる誰も気にしない。気にならない。
「なんや、うさまると歩と3人で集まれるなんて大学の時みたいやな。懐かしくてニヤニヤが止まらんわ」
イケメンは何をしても見た目だけはイケメンなのだと、蜂屋幸が証明してくれていた。
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