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51.個人的なことなので
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真っ昼間の駅前に歩と幸と3人。不機嫌そうでもイケメンな歩と、うるさいけどイケメンな幸と3人。そうなればもちろん。
「お前らが目立ちすぎて視線がうるさい」
俺がそう言うと、歩はこちらをチラッと見て次に幸を見た。
「幸がうるさいから目立つって慧が吠えてる」
「歩。お前はうさまるの話聞いとったか?お前らって言われてんから歩も同罪やで」
「俺は何も目立つことしてねぇもん」
「せやな。確かにせやけど、それでも見られてんねん。罪な男やな」
「じゃあ俺は悪くないな。とりあえず慧に謝ってやれよ」
「だから、なんで俺だけ?お前はほんまに何様やねん」
2人のやりとりを聞きながら、俺はこいつらは人の話を全く聞かないやつらだと思った。ただでさえ見られているのに、堂々と意味のわからないやりとりを続けるからだ。
「幸、それから歩。もう謝らなくていい。それよりも早くここから移動したい」
文句を言うことさえ面倒で、早く早くと2人を急かす。身軽な歩はだるそうについてきて、荷物を持たされている幸はそれを睨みながらも続いて……そして。
「リカちゃんに頼まれてとりあえず迎えに来たけど、これからどこに行くんだ?」
そう言えばこの後どうすれば良いのか俺は知らない。
なんとか逃げるように駅から離れはしたけれど、この後のことは考えてもいなかった。すると、すぐ後ろにいた歩が俺を抜き、どんどんと進んで行く。
「歩!どこに行くんだって聞いてるだろ」
聞かれたことに答えないのは昔から変わらない。ちょっとは人のことを考えて行動してほしいのに、歩のそれは留学してもちっとも変化なかった。
「おい、歩ってば!」
どんどん歩いて、それに幸もついて行って。2人とも俺を抜いて行く。まるで今の状況のように、俺だけが同じ場所に立ち止まったまま。
夢に向かって突き進む歩と、夢を叶えた幸。
失敗して身動きがとれない俺。
広がっていく距離に不安は募り、声が自然と大きくなる。
「歩、幸っ」
「慧。お前さぁ……人にうるさいって文句言っておいて、お前が1番うっせぇ」
ポリポリと頭をかきながら、ゆらりと振り返った歩。それはいつも通りの態度だった。
「分かんねぇなら黙ってついて来いよ。いちいち説明すんのダルいんだって」
「迎えに来てやった俺に対して、そんな言い方はないだろ。桃ちゃんとリカちゃんに言いつけてやるからな」
仕事で迎えに来れなかった2人の名前を出すと、歩の眉がぴくんと動いた。ほんの少しだけ視線を下に向けて、すぐに俺へと戻して笑う。
「慧は本当にめでたい頭してんのな。お前、そうやって年中頭に花咲かせて飽きねぇのかよ」
「それどういう意味?褒めてるのか貶してんのか、全然わかんないんだけど」
「それなら一生知らなくていい。無駄なこと考えなくていいから足を動かせよ。兄貴に抱かれすぎて動けないってのは、俺には通用しねぇからな」
「なっに言って……おい、歩!」
セクハラ間違いなしの発言をした歩がまた歩きだし、俺は今度はもっと強く文句を言ってやろうと身を乗り出した。けれどそれを止めたのは、ずっと黙っていた幸だ。
「うさまる、とりあえず歩こか。話はそれからでもいいやろ」
幸にしては珍しく真面目なトーンの声。なんで急にと思ったのは当然で、俺は首を傾げる。
「ほら。歩にも積もる話あるやろうし。うさまるもここで話すより、どっか移動した方が落ち着くやろ」
「まあ、そうだけど。ってか、その積もる話って何?留学の話とか?」
「それも含めて歩にも色々あるんやろ」
「ふぅん。なんか今の言い方だと幸は全部知ってるみたいだな」
積もる話って何だろうか。さすがの歩も留学となると、話したいことがあったのかもしれない。
「まあいいか。俺には2人に話すようなネタはないし」
輝いている2人とは差のある自分。2人に俺の話をするのはプライドが許せないし、卑屈になってしまうかもしれない。
だから今日は歩の話を聞いてやろうと思った。留学先の楽しい話や愚痴、弱音でも何でも聞いてやろうと思った。
それを後悔するのは数時間後。
今日、迎え役に俺が選ばれた本当の意味を知るのも数時間後。
全てのことが上手くいっているようでも、真実は違うと知るのは数時間後の話だ。
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