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53.新居と新展開
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目的地を告げなかった歩と、目的地を聞かずに車を進める幸と。そして、目的地を知らされない俺。どんどん進んでいく景色が教えてくれるのは、そこが俺の知らない場所だってことだ。
そして着いたのは普通のマンション。大きすぎず小さくもないマンション。それは俺の知らない建物だった。
「なぁ。ここ、どこ?」
幸がリモコンを操作すると、張られていたチェーンが自動で下りた。そこは駐車場へ繋がる入口だったらしく、慣れたようにスムーズに車を走らせる。
一番奥の枠内に車を止めた幸がニッと笑った。
「マイハウス!引っ越す予定やって言うてたやろ?」
「ああ、そう言えば聞いたかも」
「ごめんなぁ。ずっとバタバタしとって、部屋に呼べる状態ちゃうかってん」
エンジンを切った幸が車から出る。俺も同じようにすれば、先に外に出ていた歩がトランクから鞄を出したところだった。
「おー、偉いやん。歩もその気になれば自分の荷物は自分で持てるんやな」
「うっせ。バカにすんな」
「これはバカにしてるんじゃなくて、褒めてんねん。あ、あっちの扉から中に入れるから先に行っといて。俺は自販機で何か買って行くわ」
右手の方を指さした幸に歩が頷き、俺にもついてくるよう目線で合図してくる。先を進む歩の後ろを歩いて数秒、幸が言っていた扉が見えた。
そこは当然、オートロックで鍵がかかっている。
「これ鍵かかってんじゃん。結局、幸を待たなきゃダメなやつか」
数字を入力して開けるタイプじゃなく、鍵を差し込むタイプのオートロック。仕方なく壁にもたれてスマホを取り出した俺を、歩が一瞥する。
「あ、拓海から電話きてた。あいつ明日が休みらしいんだけど、久しぶりに3人で会う?」
拓海からの誘いに返事しつつ、どうせ歩に予定なんかあるわけないって思いつつ。一応は確認すると、歩は黙ったままポケットに手を突っ込んだ。
すぐにポケットから出した手を壁に伸ばす。すると、幸が来ないと開かないはずだった扉がガチャリと鳴って開いた。
「歩、いつの間に幸から鍵預かってたんだよ。それなら早く開けてくれればいいのに」
「いつの間って、今日会った時」
「そんなに早くから?なんで?」
「なんでって、俺もここに住むから」
「ここに住む?え、こっちに帰ってくんの?」
「もう帰って来てんだろ。慧こそ何言ってんだよ」
理解が追いつかない俺は首を傾げた。それを見て、歩が「ああ」と頷く。
「こっちにいる間、幸のところに住むってこと。だから俺が持ってる鍵は合鍵だな」
「幸のところに?なんで自分の家じゃないんだ?」
「俺が向こう行ってから母さんは病院の寮に入ったんだよ。あの人、家事すんの大嫌いだから」
「でも、それじゃあ桃ちゃんの家で良かったんじゃないの?なんで幸の家??」
「っつーか慧はなんでが多すぎだろ。面倒くせぇ」
はぁ、とため息をついた後に舌打ちをした歩は、呆気なく言った。まるで明日の天気を告げるように。今朝食べた朝飯を教えるように。
「言い忘れてたけど。俺、桃さんと別れたから」
特別なことなんて何もないかのように。
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