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54.うさぎとうしのおかあさん
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* * *
「帰ってくるのも突然、留学するって聞いたのも突然!その上、別れてから何ヶ月も経ってるなんて、ありえないよな!拓海だってそう思うだろ?」
待ち合わせしたファミレスの片隅。頬杖をついてコーラを飲む拓海に同意を求めると、可もなく不可もない反応が返ってきた。
「でもさぁ、それが歩じゃん。中学の時も高校の時も、歩は自分のことは全部自分で決めてきたんだし。今さら言うようなこと?」
「それと今回のはレベルが違う!」
「俺から言わせれば、隣に住んでて気づかない方がどうかしてると思うけど。だって歩が桃ちゃんと別れたのって、留学する前の話だし。桃ちゃんの家に歩が来なくなったこと、どうして慧はわかんなかったの?」
「それは……それは、だな」
「答えにくいなら俺が言ってあげよっか?あの時の慧は自分の試験とか就職とか、卒業することに必死で周りなんて見えてなかった。だからだよ」
拓海の指摘に声が詰まる。だって、全て拓海が言った通りだから。
昨日、詳しく話を聞こうとしたのに俺はそれに失敗した。なかなか喋ろうとしない歩に、俺は勝てなかった。
その敗因の大部分は幸にあると思ってる。人には人の都合があるって、幸が歩の味方をしやがったからだ。
「でも……俺だって、大事な話ならちゃんと聞いてた。いくら自分が大変だったとしても、時間ぐらい作ったし」
「歩が慧にそれを求めるとは思えないけど」
「じゃあ桃ちゃんは?!歩が教えてくれないなら、桃ちゃんが教えてくれたって良かったのに」
「それはもっとナシ。誰が10歳も年下の、しかも別れる予定の彼氏の友達に相談するんだよ……。慧さ、忘れてるかもしれないけど、桃ちゃんは俺らよりもずーっと大人でずーっと経験値が高いんだからね」
拓海すら俺の味方をしてくれなくて、孤立感が半端ない。別に俺が歩と桃ちゃんの間に入ったって、何かが変わったわけじゃないことは理解してる。
でも、問題はそこじゃない。
「いっつも俺だけ仲間外れ。なんなの、みんなして俺のことが邪魔なのか?俺を1人にして楽しんでるのかよ」
「慧。お前、何をらしくないこと言ってんの?歩と桃ちゃんなら、自分たちのことで周りを振り回したりしないって。慧とは違うんだから」
「拓海、どうしてこの状況で俺のダメ出しになるのか意味わかんないんだけど」
「そんなの慧がワガママ言うからでしょ。本当に変わらないんだから」
拓海がストローでコップの中をかき回せば、氷がカランッと鳴る。その音がまた俺をイライラさせて、ああもう……腹が立って仕方ない。
「俺はワガママじゃない。ワガママなのは歩の方だ」
「なんで慧と歩はいっつも張り合うかなぁ……。俺さ、昔から思ってたけど2人って仲悪く見せて実はすげぇ仲良いよね」
「良くない。俺が歩と仲良くしてやってるだけだし」
「それ歩も同じこと言いそうだよな。ほら、やっぱり超仲良しじゃん!」
繋がらない会話に、俺のモヤモヤは膨らむばかり。
そもそも、途中からなぜか俺と歩が仲良しだって話になるし、それなのに張本人の歩はまだ来ないし。
ちょっと用事があるから夕方には合流するって言ったのに、俺より遅いなんて信じられない。
「なんだよ。歩は何から何まで自分勝手すぎる。もう学生じゃないんだから、時間ぐらい守れって話だよな」
「──それを言うなら、もう学生じゃないんだからスマホぐらい確認しろ。お前のスマホは連絡ツールじゃなくゲーム用なのか?」
すぐ側から声が聞こえ、勢いよく振り返った。するとそこには無表情で突っ立っている歩がいる。
「あ、歩おつかれ」
にこにこと手を振る拓海だけが異様だ。文句を言った俺と、おそらくそれを聞いただろう歩。よくその2人に挟まれて、どうして笑えるんだろう。
相変わらずメンタルが強い拓海が羨ましい。
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