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56.怒ると怖い人
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今までの俺なら、歩の言葉にすぐにでも怒っていたはずだ。でも俺は大人になり、時には聞き流すことも大事なのだと知った。だから咄嗟に出かけた言葉をグッと堪える。
文句を言う代わりにストローを咥え、冷たいオレンジジュースを飲み込んで。そうやって冷静を保とうとする俺に、追い討ちがかかる。
「否定しないってことは相変わらず週5回か。それ以外、他にすることねぇのかよ」
「えぇ……慧ごめん。いくら元気な俺でも週5は無理だよ。リカちゃん先生も慧も、すっげぇ元気だな!」
「ってかこの場合、凄いのは兄貴じゃね?あいつ、死ぬまで絶倫とか気持ち悪い」
「でもリカちゃん先生って老化とかなさそうだし。外見そのままで中身だけアップデートしていく感じ」
「待てって、それはスマホだろ。もし兄貴がスマホなら、着信音も通知音も『慧君』に決まりだな」
「歩、それウケる!!Hey、慧君って声かけるんだろうな!リカちゃん先生だから発音も本場だよ、きっと」
どう考えたって俺をからかっている2人の会話。拓海はともかく、歩が楽しんでるのは絶対だ。そんなことはわかってる。
だから耐えろって自分に言い聞かせた。こんなの慣れてるだろって自分で自分を宥めた。でも……。
「良かったな、慧。兄貴は人間じゃないみたいだから、どれだけ中に出されても妊娠しねぇよ」
うん、ダメだ。もう我慢の限界は越えた。
「普通にしないからな!リカちゃんが人間でもスマホでも!何回シても妊娠なんてしないからっ!!」
耐えきれなくて言い返した言葉に、辺りが静まり返る。せっかくの努力が一瞬にして無駄になってしまった。
まるで時間が止まったみたいに。でも、確実に向けられている視線は、1人や2人分じゃない。絶対。
「あーあ。慧のせいで目立ってるんですけど。本当に慧は高校の時から注目集めるの好きだよな、拓海」
「いやいや。今回のは俺たちも悪いって」
「相手の挑発に乗せられて自爆する方が悪い。どんな時も冷静に判断しなきゃな」
短くなった煙草から煙を吸い込み、それを吐き出した歩が俺に向かって笑う。
「慧君はまだまだ子供ですねー。お兄さんが足し算から教えてあげましょーか?」
わざとらしく優しい声色で言った歩に、爆発したばかりの怒りが再燃した。
手元にあったおしぼりを歩の顔に向かって投げつければ、至近距離だからか思った以上に威力があったらしい。
顔を抑えて俯いた歩が少し唸った。
「はっ、どんな時も冷静に判断するんじゃねぇのかよ。歩の方こそ危機管理能力がなさすぎ」
「っ……てめぇ。これだから躾のなってないやつは嫌いなんだよ。兄貴はお前のこと自由にしすぎだろ」
「今のはリカちゃん関係なく、俺の機転が利いただけだ。潔く負けを認めろバカあゆ」
「バカにバカって言われたくねぇし」
「俺こそ、バカにバカって言われたくないって言われたくないし!」
お前がバカだ、お前の方こそバカだと言い合うこと数回。ついにはお互い昔の失敗談まで持ち出し、いつまで経っても引かない俺たちに、キレたのは今日はまだ白いままだった友達。
──ドンッ
それは握った拳がテーブルに叩きつけられる音。それから、俺の座っているソファが足蹴にされた音。
「もう子供じゃないんだから、くだらないことで騒がないでくれないかなぁ。さっきから聞いてれば、バカだのバカじゃないだのって……2人とも幼稚園から出直す?すっげぇ背の高い強面の保父さん、紹介してあげよっか?」
落ち着いた声で笑いながら言うくせに、半端なく怖い。普段とのギャップが、とにかくもう怖い。
「俺に言わせれば、どっちも状況見れてないし危機管理もできてないと思うけど?こんなに人のいる場所で騒ぐなんてバカなの?バカ同士で優劣決めるなんて、すっごく楽しそうだなぁ」
言い訳する隙も与えず言い切った拓海が、テーブルに置いていた拳を持ち上げる。そしてそれを指さす形にして、俺と歩を順番に示した。
「聞いてんのか、バカ1号と2号」
黒たっくんは今も進化し続けていた。
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