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57.お悩み相談室
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昔から拓海に怒られると、なぜか歩は大人しくなる。今だってすぐに黙り、でも認めたくないからか窓の外を見てごまかしていた。
けれど俺は知っている。クルクルとストローを回してアイスコーヒーを混ぜてるつもりだろうけど、もう空になっているってことを。何かしないと気まずくて、でも新しいのを入れに行くのはもっと気まずいってことを。
だって俺も同じだからだ。俺のグラスも空になっていた。
「それで。せっかく3人が揃ったことだし、それぞれの近況報告でもしとく?俺と慧だって会うのは久しぶりだし」
「え、久しぶりだっけ?先週会ったばっかりだけど」
「その時は慧がゲームの話とゲームの話と、ゲームの話しかしなかったでしょ。俺があの日の内容で覚えてるのは、慧が1日で3万課金して、リカちゃん先生にバレたら怒られるって言ってたことだけだから」
サラッと人が秘密にしていることを拓海が口にする。しかもリカちゃんの弟で、人の弱みを利用することに抵抗のない男に。
「へぇ。お前、相変わらずゲームばっかりしてんのか」
「別に歩には関係ない」
「でもお前に浪費癖ができたら兄貴が困るし?そうしたら、いつか弟の俺にまで皺寄せ来るかもだし?だからこそ、俺は心を鬼にして兄貴に言うべきか……って悩む」
「絶対に嘘だ!歩は生まれた時から鬼に決まってる!」
鋭い視線で睨みつければ、反応したのは歩ではなくて拓海だった。
「あーもう!また言い合いするなら本当にリカちゃん先生にバラすから。歩も、いくら久しぶりに慧と会えて嬉しいからって調子に乗らない」
乾いた音が歩の頭から聞こえる。それは拓海が歩の頭を叩いた音で、でもそこまで強くはなくて、けれど歩は相当ショックみたいで。
珍しく動揺して固まる歩に、俺が嬉しくなる。
それを見逃さなかった拓海に睨まれ、すぐにニヤケる顔を戻したけれど。
「とにかく。慧がまた何かに悩んでる顔をしてるのは、俺も気づいてたよ。前から気にはなっていたけど、今日は特に酷い気がする」
「別に悩んでなんかないし」
「慧はさぁ、昔から拗ねた顔で別にって言う時は嘘を言ってる時だって知らないの?もうバレてんだから素直に言いなよ、面倒くさい」
最後の面倒くさいに拓海の全てが込められている気がして、ごまかしたら後が怖いことがわかった。こうして拓海は、ますます恐怖の魔王へと近づいていく。
でも、笑いながら詰め寄ってくるその顔の裏には、俺のことを心配してくれる友達想いなところが隠されているのを知っている。
まだ固まっている歩も、拓海と同じように話を聞いてくれることも知っている。
ただ、俺は自分のことがわからない。
「悩んでるわけじゃないと思う。多分だけど」
わからないのは今の状況と、この気持ち。モヤモヤとした不安と、イライラとした毎日と、グルグル巡る名前の付けられない考えの正体。
その原因がわからなて困ってるだけだ。
「最近の俺、変なんだよ。何かがすっげぇ怖くて、でもそれが何かわからない。突然不安になって、かと思えばいつの間にか解消して……それなのに、また心配で眠れなくなったりして。怖くて怖くて、どうにかしたいのに何を変えればいいかわからない。でも…………朝が来るのが怖い。明日になるのが怖い。今が終わるのが、とにかく怖い」
意味不明なことを言ったのかもしれない。拓海は瞬きを繰り返し、歩はため息をつく。
カラカラとなる氷の音が、また再開した。
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